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 客たちが帰ったあと、撮影の許可が出された。裏方の若い衆が呼ばれ、客の役をしてくれた。ちなみに本来、客と呼ぶのは御法度らしい。博奕だけにゲンを担ぐ人間も多く、客は「店」と呼ばれる。盆中という遊技場に遊びに来たのだから、実際のところ客は客だ。日常、博徒たちも裏では張り手をそう呼んでいる。しかし、客とはあくまで金を払う側を意味し、勝って帰れば胴が客になる。本引きは胴師と張り手が金を取り合うマネーゲームだから、最初から張り手を客と呼べば、負けを前提にしていることとなり、失礼な行為なのである。また、食事にトリネギを出すのも御法度だ。理由は改めて書く必要などないだろう。

博奕にはイカサマも存在した

 撮影を終えた後、胴師が吹き替えというイカサマをみせてくれた。札に細工をするのではなく、札を開ける際、一瞬で手に隠していた札と置き換える技だ。カメラを構え、ビデオもセットしたのに、何度見ても分からなかった。マジックの種を知っていても、それが見破れない。この胴師も数年前に亡くなった。若い博徒は手本引きを伝承しようとしておらず、もったいない話と思う。

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 本引きの本場は関西だが、関東にも名人がいるという。事実、稲川会主催の手本引き博奕に出席した関西博徒は、その見事な所作に感服したことがあった。

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一番下は任天堂の機械刷り。大量生産品で、大阪では煙草屋で簡単に入手できた。同じ札を買い、細工されて持ち込まれるのを防ぐため、パンチ穴をあけたり、シールを貼ったり、それぞれの盆中オリジナルの加工をしてから使う。中段の白黒反転と赤札のそれは、某博徒組織に依頼され、ワンオフ制作した松井天狗堂の手刷り札。デザインを変える理由はやはりいかさま防止 © 鈴木智彦

「その博奕には関西のほとんどの博徒が来てた。そのとき、ある組織が関西でも名うての仕事師(仕事=イカサマ)を連れて行ったんや。おそらく、関東の博奕なんてたいしたことあらへんいう意識があったんやと思う。そのとき使うたのが、シャッターいうて、バタバタと目の変わるイカサマ札。せやけど稲川会の合力はすごかった。一発でパシッと見破り、そっと注意したからな。向こうの合力はみな達者やな、思うたわ」

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鈴木 智彦

文藝春秋

2011年2月17日 発売