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―――本書には、書店チェーンのPOSデータをみると『日本国紀』と併売率が高いのは『FACTFULNESS』だったとあります。イデオロギーで『日本国紀』を買っているわけではない人たちが存在している。

石戸 本の中でも書きましたが、『FACTFULNESS』は世の中をイメージではなく、ファクトで見ようという一冊です。これと『日本国紀』が一緒に買われているのはどういうことかと言えば、売れているから買うという人がいるということです。 

 こうした市場の現実にちゃんと向き合わないと、「百田本を買うような大衆は馬鹿だ」とか言い出してしまいかねない。百田さんもそうだし、小林よしのりさんもそうですけど、彼らは本を売るということにものすごく真剣に向き合っています。 

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 特に小林さんは自分の思いをぎゅっと一冊の本に閉じ込めて、自分の作品として読者に届けようとしてきて、実際に右派本のマーケットを切り開いてきました。その情念は、多分に間違いを含んでいるけれども、小林さんが対象読者としてきた普通の人たちを突き動かしていくわけです。これは馬鹿にはできないわけですよ。 

 右派的なコンテンツでこれだけ市場が埋まっていくことがいいのかといえば、いいわけないと思っています。だからこそ、逆説的ですが、市場と向き合って来た人たちの話を描こうと思ったわけです。 

 

攻守を逆転させた、「つくる会」の戦略

―――右派の強さは、そうこうして来た経験値によるものでしょうか?

石戸 右派本市場の関係者のほうが、世の中にどうやったら刺さるか、どういうポジションをつかむといいかをわかっています。『ルポ 百田尚樹現象』で、なぜ小林さん、西尾さんらの「つくる会」を取材して本書に取り込んだのかというと、あのとき、彼らが、右派運動のスイッチを「守」から「攻」に切り替えたからです。 

 それまでの左派の市民運動や学生運動がどうやって力を得ていたか。それは、自民党や保守陣営といった大きな権威に立ち向かうことで得ていたんです。

 この大いなる権威に対抗することでエネルギーを調達するやり方を、「つくる会」は右派として初めて大規模にやった。それは元左派だった藤岡信勝さんがいたことも大きいですが、時代が切り替わった瞬間だったと思います。つまり、右派の反権威主義運動なんですね。 

 百田さん自身も反権威主義だと言っている。ここは連続しているんです。 

 朝日新聞など巨大なリベラルメディアがあって、彼らが日本を牛耳っていて、こいつらに立ち向かっていかないといけないんだと彼らは言うわけです。

 百田さんは、「僕の小説はようやく500万部に達したけど、朝日新聞は1日に500万部出ている」と言う。「1日に500万部」という言い方は初めて聞いたんだけれども、「そうか、この人はそういうふうに世の中を認識しているのか」と妙に合点しました。