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「博奕は一回一回が名勝負やねん」昔を知る大阪のヤクザが語った“博徒の美学”

「潜入ルポ ヤクザの修羅場」#18

2020/07/26

博徒によるシノギのオーラルヒストリー

 ――組員になって最初は、「どこどこの角にこんな人がいるから行ってこい」言われて迎えにいったり、下足番をさせられる。博奕のことを知らんでも出来る仕事やけど、博奕場で下足番いうのはごっつう大事やねん。博奕で負けて足下すくわれれば誰やって腹が立つ。そんなとき、靴を間違えてみぃ。ただではすまん。せやから下足番は必ず下足札渡すねん。

 次が灰皿片づけやタバコや飲み物の用意や。こうなると盆中に上がれるから、雰囲気もよう分かる。「おい、タバコや」「おい、灰皿や」言われてるとこへ好きな女が来たら恥ずかしい思うて、必死に勉強したわ。

 手配博奕はわざわざ来てもらうんやから、もともと飲み食いは全部用意した。昔は常盆に「うまいもん屋」いうのが食べ物を売りにきとった。タバコやサイダー、握り飯なんかもあった。会津の小鉄が三条の河原で最初にうまいもん屋をやったらしい。それがいつしかタダになったのは、けっきょく賭場のサービスやな。

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 ガキの頃、氷で冷やされた瓶詰めの珈琲牛乳が飲みとうて、ええなあ思うたのを覚えとる。当時もみんなタダやったで。盆中の経営では、この経費がけっこうかかる。ただ、あまり飯は出さんな。よっぽどのお客さんだけやし、出しても握り飯か寿司みたいに食いやすいもんや。鉄火巻きいうのは、鉄火場で食べやすいようにということで生まれたらしいが、本当のところはわからん。また、飯を出すときにサンマや鯖といった背の青い魚や、トリ、ネギなんかは御法度やった。魚はどんな意味かわからんねんけど、そうやって一つひとつ修行していくわけや。

スイチは博徒としてあるまじき振る舞い

 映画なんかでは主人公が土壇場の場面でスイチを張って、見事に勝負に勝つなんて場面があるが、本来、スイチはかっこ悪いんや。自信満々やし、だいいち、胴師をなめとるわなぁ。もし抜けた(負けた)ときかっこわるいし、相手に対する礼儀が欠けとる。尊厳いうのを足下からすくっとるわけで、一種の挑戦状や。