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若い衆の借金も肩代わりした親分

 酒梅組(本部・大阪。指定団体)の五代目の親分(谷口政雄組長。通称タニマサ。故人)は、若い衆が野球の負けのような博奕の借金で追い込まれたら、それは払ってやった。その代わり電気代払わんで、電気止められようが絶対払わん。例えば友達に100万貸すやろ、そんな金は「やったと思うて忘れ。返せ言う方がおかしいわ」言ったそうや。せやけど博奕のやりとりはなにをおいても集金せい言いよった。「男は博奕で名前売るのが一番早い。せやけど下手打つのも一番早い」としょっちゅう言うてはったわ。

 タニマサの親分はすごい人やった。なにしろ新幹線が着くやろ、「ええとこおまっせ」言うてバスで客を連れてきたらしい。みなぞろぞろ賭場にやってきて、楽しく遊んで帰る。どんな人でも喜んでたいうわ。それだけタニマサの賭場は安心して遊べたわけや。もちろん常盆でも、全国から客が来てた。

繁盛を続けるタニマサの賭場

 土井組(解散)の親分なんかもよう顔出してた。そりゃあかっこええ人やったわ。外車乗って着流しで、さっそうと現れる。見た人はみんな「あれはどこの親分や」言うてたよ。そんな人間にはいろいろな伝説があるもんや。たとえばずらり店が並んどるところをサッとあるいただけで、「あっこなんぼ足らん」と千里眼のように合力の間違いを指摘した、いうな。それが「凄い人や。千里眼や」いう評判になり、ますます賭場が繁盛する。せやけど、ほんまは肝心要のとこ、急所だけおさえとんねん。20人も30人も客がおるなかで、全部を見渡すことなんて誰もできん。たまたま見てたとこが間違うたから言うてるだけやねん。だからパフォーマンスやけど、その評判をええように解釈させるのも博奕打ちの器量なんやで。

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 そんな人がゴロゴロいたから、盆中も繁盛した。そのうちタニマサの親分は上限(賭け金制限)無しっていきよったわ。極端な話、何千万でも、何億でも勝負を受ける。これはもう、博奕打ちのプライドやろうな。普通は200万くらいで止める。倍々張ってこられたら難儀しよるもん。数学の確率で言えばいつか出るからな。でも、絶対そうはならんのが面白いところや。これはイカサマちゃうで。賭場には魔物が棲んどるいうこっちゃ。かならずなんぼか損いうことになるな。

 とにかく、昔の親分はどこの組であろうがみんな器量の大きい人ばかりやった。喧嘩も強いし、根性も情けもある。とくに代紋頭いう人は、一種特別やったよ。若い衆がさらわれたとき、白い着物着て乗り込んで助け、自分が殺されたなんて親分もいるんやからな。組織の大小やない。みんなそのくらい器量があったんや。