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中国の支援、背後にあるものは?

 その2か月後、今度は熊本県でマグニチュード7の地震が発生した。台湾は当時の馬英九総統が1000万円の支援を表明した。だが、ネットなどから少なすぎるとの声があがり、支援額を6400万円に増額。台湾の高雄市長の陳菊、台南市長の頼清徳、台中市長の林佳龍らも、それぞれ1か月分の給与を日本に寄付した。台湾においては、日本に支援しないことで政治家が批判されるほど、民意が日本支援を求めた。一方、日本でも、東日本大震災の翌年の追悼式典において、台湾の駐日代表を招かなかった当時の民主党政権は、日本世論から厳しく批判され、翌年から正式招待に切り替わった。

 元をたどれば、1999年の台湾大地震のときに真っ先に救援に駆けつけた日本のことが今も台湾では語り継がれており、「震災支援の連鎖」は恩返しの連なりによって裏付けられている。

 中国から日本に届けられるマスクについて、日本人が感謝していないわけではない。しかし、その背後に、どれだけの善意とどれだけの思惑が実際に隠れているのか、正直、判断がつかないところがある。

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転換する日本人の「台湾」意識

 一方、台湾から届けられるマスクや支援には疑いを持たなくてよい。それは、この10年の支援の連鎖が積み重ねてきた信頼関係があるからである。

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 日本社会の台湾認識は大きく変わった。台湾が正月や夏休みの休暇で訪れたい国でトップ3に常時入り、台湾発のデザートや料理が日本のコンビニやショップで消費されている。タピオカミルクティーの大ブームがその代表格であるが、台湾社会への好感が背後になければ到底考えられない。

 今回、新型コロナウイルス対策における台湾の防疫の成功は、日本社会にも台湾の先進性を強く印象付けた。今回の台湾への注目度は、東日本大震災の時と同等に、日本の台湾認識をさらに大きく進化させるはずだ。

 東日本大震災の時には、台湾から「物資」と「好意」が日本に感動を与えたが、今回は台湾の「行為」と「価値観」が大きく日本人を驚かせた。合理的なリーダーシップ、的確な政策、透明性の高い情報公開、政府の高いIT活用度、理性的な市民の対応、マイノリティや弱者を取りこぼさないやり方など、日本人が学ぶべきところは多く、この中で生まれた尊敬の念は、日本人が台湾に抱いていた親近感をさらに深いものに変えていくだろう。

 過去は日本が台湾に対してどちらかといえば「与える側」であったが、いささか皮肉な言い方になるが、アフターコロナの時代に、日本が台湾に与えるものをまだ持っていることを願いたい。