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発達障害の専門家は「未熟さ」と「先天性の脳機能障害」を区別できない

『発達障害のウソ――専門家、製薬会社、マスコミの罪を問う』より #1

2020/07/31
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専門家でも正確な診断が難しい

 しかし事実はこうです。トム・クルーズが台本を自分で読めなかったのは事実でした。学習障害の一つであるディスクレシア(読字障害)とされたのも事実です。しかし、彼が先天的な脳機能障害であり、その特性は治るものではないというのは事実ではありません。なぜならば、彼は単に学び方を知らなかっただけだからです。学び方を知ることで、今や彼は自分で本を読めるようになったどころか、自分で学んでヘリコプターの免許まで取得できるようになっています(映画『ミッション:インポッシブル』シリーズでは、自らヘリコプターを操縦するシーンが撮影されています)。

 もしも専門家が主張する通り、生まれつきの脳の問題であるとしたら、それが完全に「治る」ことなどあり得ないはずです。幼少時代から大人になってもそれが続いていたので、一生障害と付き合わないといけないものだと本人も周囲も思い込んでいたことでしょう。

 しかし、トム・クルーズは単に正しい方法を知らないという、いわば未熟な状態でした。つまり専門家は、「未熟さ」と「生まれつきの脳の問題」を区別できないということです。そんな専門家たちが診断する以上、彼のように誤ってレッテルを貼られてしまっている人は数えきれないほど存在することでしょう。

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フィクションの登場人物にさえ「診断」を下す医師の傲慢

 トム・クルーズは、自ら証明して自分に貼られていたラベルを剝がしただけではなく、これ以上自分と同じように安易にラベルを貼られる犠牲者を出さないよう、子どもだけでなく大人たちも適切な学び方を理解できるような学習支援を展開しています。

©iStock.com

 このような事実を確認もせず、今なお「あのトム・クルーズも実は学習障害なんです!」となぜか得意気に引き合いに出すような専門家がいたら、まあその程度だということです。トム・クルーズ本人はそのような扱いを受けることについて誰よりも怒ることでしょう。そして、勝手に発達障害にされている歴史上の人物も、もしも生きていたら余計なお世話だと怒ることでしょう。

 一方的に発達障害にされてしまう被害者はそれだけではありません。フィクションである漫画や小説、ドラマなどの登場人物までも勝手に発達障害扱いする専門家もいます。作者が発達障害を意図して登場人物を描いていたという事実があるのならともかく、明らかにそうでない作品に対しても勝手に言及しているのです。本人はおそらく専門的視点から作品を解説してあげているつもりなのでしょうが、他人が作り上げた世界に土足で踏み込むその姿に、精神科医の傲慢さを感じるのは私だけでしょうか。