「発達障害」とは、ADHD(注意欠陥多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、LD(学習障害)など複数の障害の総称として使われている。厚生労働省も「発達障害」について、「生まれつきの特性で」「生まれつき脳の一部の機能に障害があるという点が共通しています」としており、発達障害支援法でも「脳機能の障害」(第2条)とされている。
しかし、実は、「発達障害」はいまだに科学的根拠のある診断が確立されておらず、「脳機能障害説」「先天性説」も実証されていない。そのため、診断は表面的兆候から症状を区別する方法が主流となる。つまり最終的には医師の主観による診断にならざるを得ない。
それにもかかわらず昨今、多くの人々が「発達障害」と診断されている状況に疑念を示すのは、「市民の人権擁護の会日本支部代表世話役」である米田倫康氏だ。専門家でさえ正確に診断することが難しいとされる発達障害について、米田氏は現状と課題を知るべきだと語る。
『発達障害のウソ――専門家、製薬会社、マスコミの罪を問う』(扶桑社新書)より、本文を抜粋する。
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有名人を発達障害と断定
「発達障害に正しい理解を」という類の番組や記事、書籍には必ずと言って良いほど、発達障害の有名人が出てきます。
発達障害と診断されて人生が変わったと説明するような芸能人、アナウンサー、スポーツ選手、アーティストなどが紹介されますが、実はこれらの人々は発達障害と診断されただけであって、発達障害であると科学的に証明されたわけではありません。当然、彼らは先天的な脳機能障害であると証明されたわけでは決してありません。
診断はあくまで一つの「意見」に過ぎません。証明でも何でもありません。検察側と弁護人側の精神鑑定の結果がまったく異なることが普通にあるように、これは「事実」ではなく「意見」なのです。それをさも「事実」であるかのように報道されるから誤解や偏見が生まれます。
会ったこともない「偉人」を診断するのは不可能
さらにひどいのは、専門家がしたり顔で出てきて、エジソンやアインシュタイン、モーツァルト、坂本竜馬らは発達障害だったなどと断定的に言い出すような番組です。いやいや、生きている人間でさえ簡単に診断を下せないのに、どうやって会ったこともなく、その人を直接知っている人に丁寧に聞き出したわけでもないのに診断を下せるのでしょうか。まさか普段から除外診断などせず、チェックリストに当てはめただけで診断しているのでしょうか。おそらく、普段からそのようなことをしているからこそ、その延長で勝手に過去の偉人を発達障害などと臆面もなく判定してしまうのでしょう。誰もエジソンや坂本竜馬が生まれつき脳機能障害を持っていたことなど証明できません。彼らが発達障害だというのは、推測に過ぎない、しかも故人の名誉を棄損しかねない意見です。
意見は意見に過ぎず、事実の前では容易に覆されます。「発達障害に正しい理解を」的な報道や書籍では、発達障害の著名人として俳優のトム・クルーズがよく引き合いに出されます。そして、台本を自分で読めなかった彼のエピソードを紹介し、生まれつきの特性だとか脳の機能障害だとか、本人の努力ではどうにもならないので周囲の理解が必要だなどと、一見するともっともらしい自説を都合よく展開するために利用します。