絶滅の危機にある渡り鳥に安全なルートを教えるため、超軽量飛行機(ULM)で一緒に空を飛んだ気象学者クリスチャン・ムレクの実話を基にした『グランド・ジャーニー』(公開中)。監督であるニコラ・ヴァニエは『ベル&セバスチャン』など大自然を撮り続ける一方、冒険家で小説家でもあり、映画化にあたり学者の14歳の息子が渡り鳥と空を飛ぶ物語として再構築した。
「ムレクのドキュメンタリーは既にあるので、まずは小説にしたのです。今は自分の世界に閉じこもっている子供たちが多い。そこで、父親が息子に何かを継承する話にしてみようと思いついたんです。この父が持つ鳥への情熱や、空を飛ぶことへの情熱は、もしかしたら祖父も持っていたのかもしれない。継承されるということが、とても少なくなっていることへの危機感もあり、世代を超えて何かを伝えることの困難さも含めて、そこに価値があるということをフィクションとして描こうと思いました」
モデルとなったムレクは「バードマン」の愛称でフランスでは有名で『WATARIDORI』の撮影にも関わっており、本作でも第2班監督および脚本として参加。少年がガンの群れと共に大空を飛ぶ姿は躍動感が素晴らしく、あまりに自然で、どのように撮ったのかと驚かされる。
「あのシーンは確かに複雑でした。鳥と同じスピードで飛ばないとあのようには撮れない。ヘリコプターなどは問題外で、ULMで並走して撮影したんです。ただしULMのモーターは脆弱なので、乗るのは撮影スタッフ2人のみ。僕は地上からモニターを見ながら指示を出し、さらにもう一機が別角度で撮っています。親子役の2人も操縦方法を習い、ムレクと実際に飛んでいるんですよ」
CG合成も最小限だけだという。
「ごくごくわずかな部分だけ。そうでなければニコラ・ヴァニエの作品ではないという自負があるので、鳥とULMが飛ぶシーンにはCGは使っていません。唯一、合成をしたのは嵐のシーンだけ。それでも鳥の飛行には手を入れていません。鳥や動物をCGで表現することは非常に増えていますが、一瞬リアルに思えても、観ているうちにどこか違和感を覚えるものだと思うんです。人間が完璧な生き物ではないように、鳥だって完璧ではない。その不完全さにこそ真実がある。人工的なリアルではなく、観客には完璧でないものの中に真実を感じてほしい。実は、それがこの映画で伝えたかったことの一つでもあるんです。14歳のトマはゲームが大好きで、バーチャルな世界に没頭している。世界中どこの子供もそうでしょう。でもトマは空を飛んだ時に、こんな世界があるんだということを知る。これはゲームの画面よりも現実の方が広大で美しく感動的なものだ、ということを発見するティーンエイジャーの物語でもあるんです」
新型コロナウイルスの影響で、このインタビューは監督とZoom上で行った。映画撮影も大きく変わらざるを得ないのではないかと聞くと、冒険家らしい前向きさと慎重さを合わせた言葉が返ってきた。
「幸いにもウイルスは永遠ではないということは、過去の経験からわかっているし、必ず打ち勝つ方法は見つかると僕は思っている。もちろん今後、1、2年は感染対策を十二分にしないとならないし、もっと時間がかかるかもしれない。ただ何より、世界中の誰もが今回は関係者であり、この経験から教訓を学ばなければ。今までと同じ生き方をしていてはいけないということを、身に染みてわかったわけですから。今後、気候変動による悪影響がさらにあるということを科学者たちは警告している。我々は世界のシステム自体を変えていかねばならないんです」
Nicolas Vanier/1962年、セネガル生まれ。ドキュメンタリーを数多く制作。劇映画は『狩人と犬,最後の旅』(04)、『ベル&セバスチャン』(13)など。冒険家でもあり、犬ぞりで北極圏を踏破した。
INFORMATION
映画『グランド・ジャーニー』
https://grand-journey.com/