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「初見でホームランを打っちゃった」藤井聡太、戴冠への道中で何が起きたのか

「初見でホームランを打っちゃった」藤井聡太、戴冠への道中で何が起きたのか

将棋記者が目撃した、天才・藤井聡太の進化 #1

2020/07/23
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報道陣が対局者をグルっと取り囲み

――一緒に四段に上がったのが、大橋貴洸六段でした。藤井さんは、まだ中学生でしたが、一人で参加を?

相崎 お父さんも一緒に来られていましたね。もちろん彼は未成年ですからジュースを飲んでいました。

元『近代将棋』の編集者であった相崎修司さん。竜王戦、王位戦、女流名人戦などの観戦記を手がけている ©平松市聖/文藝春秋

――では、初めて藤井将棋を仕事で取材したのはいつでしたか。

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小島 私が初めて藤井さんの棋譜中継を行なったのは、竜王戦6組決勝の近藤誠也戦でした。

相崎 私も藤井さんの将棋を初めて間近で見たのは小島記者と同じ竜王戦の近藤戦でした。この時を含め、それから合計5回、藤井さんの将棋を新聞観戦記で書く機会がありました。

――この対局は2017年の5月25日のことですね。デビューから続いていた連勝記録が19を数えたときですが、やはり注目度は高かったですか?

小島 報道陣が対局者をグルっと取り囲み、すごかったですよ。この日の将棋は、藤井さんがペースをつかんでから押し切って勝ちました。ただ、当然のことながら、研究勝負や作戦の相性が大きくて勝つというケースもあるわけです。ですからこの対局だけで、藤井さんの力は、よくわかりませんでした。中終盤でねじりあいになったときにどうなるか――。このあたりは、まだまだ未知数でしたね。

ちゃんと力が溜まっている状態で反撃に転じる

君島 私は、加藤一二三九段とのデビュー戦(2016年12月)の棋譜中継を担当したのが、最初ですね。そのとき感じたのは、受けがしっかりしているということでした。

君島俊介さん。「銀杏」名義での棋譜中継に加えて、順位戦、棋王戦、棋聖戦などで観戦記を執筆している ©平松市聖/文藝春秋

――加藤先生の攻めをしっかり受け止めたと。

君島 そうですね。その印象は今でもあまり変わらず、藤井さんはよく「終盤の切れ味」とか「寄せ」と言われますが、受けに強みを発揮する方なのかなと思っています。そして、反撃に転じるタイミングを慌てない。ちゃんと力が溜まっている状態で反撃に転じて、勝ち切る――。そういうところはデビュー当時からあるのかなと感じています。

相崎 詰将棋を解く能力は藤井さんほどではないにしても、トップ棋士ならば、似たようなレベルの終盤力を持っていると思うんですよね。実際、藤井さんといえども終盤で常に最善手を指し続けているわけではない。自分が観戦した将棋で例を挙げると、昨年の竜王戦における対豊島戦がそうだと思います。混沌とした終盤で、最後に間違えたのが藤井さんという一局でした。