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「初見でホームランを打っちゃった」藤井聡太、戴冠への道中で何が起きたのか

「初見でホームランを打っちゃった」藤井聡太、戴冠への道中で何が起きたのか

将棋記者が目撃した、天才・藤井聡太の進化 #1

2020/07/23
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 藤井聡太七段が、渡辺明棋聖とのヒューリック杯棋聖戦五番勝負を制して、17歳11カ月で史上最年少でのタイトル獲得者となった。

 そんな彼については、連日「すごい」と賞賛する報道がなされているが、具体的に何がすごいのか――。よく言及される「終盤力」や「AIを用いた研究」というのは、彼の「すごさ」の一要素ではあるだろう。しかし、それがすべてではないことは、多くのファンが感じていることだろう。

史上最年少でのタイトル奪取を果たした藤井聡太棋聖 代表撮影

 本稿では、この「藤井聡太のすごさ」を改めて考えてみようと、彼の将棋をデビュー当時から見てきた記者が集まり、その「すごさ」を具体的に語ってもらった。記者が感じる藤井聡太の凄みは、果たしてどのようなものなのだろうか――。さっそく本論に入りたいところだが、その前に、編集部から提案されたひとつのルールについて触れておきたい。

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「藤井聡太棋聖の快挙を報じる記事が増えるなか、私たち表現する側も試されているのではと感じています。食レポであれば『おいしい』ということばは使わずに味を表現するのが作法です。藤井棋聖は、デビュー以来数々の記録を打ち立てるたびに『すごい』と言われてきましたが、ことばの重みが薄れてきてしまっているのではないかと。そこで今回は、『すごい』という表現を使わないというルールを設けたいと思います」

 突然の提案に「えー!」と不満気な声も上がったが、こういったルール設定で鼎談は始まった。原稿内に時折出てくる、やや不自然な「めっちゃ」や「グレート」といったことばは、こういった縛りゆえとご理解いただきたい。

後編を読む)

小学校6年生のとき、とんでもないスピードで初優勝

 まずは、各記者に藤井聡太という名前を知ったときと、デビュー当時の印象を語ってもらった。最初に話してくれた小島記者は、その当時は、今の力はつかみきれていなかったという。

小島渉 私は、詰将棋解答選手権の速報スタッフをしていたので、藤井さんの名前を知ったのはそのときでしょうか。彼が小学生のときだと思います。

小島渉さん。現在は、中継記者として「紋蛇」の名前で棋譜中継をしている ©平松市聖/文藝春秋

君島俊介 私は詰将棋解答選手権に回答者として5回出場しました。詰将棋解答選手権のいいところは、同じ会場でプロ棋士も同じ問題を解いている空気を感じられる点ですね。たとえば、自分がまだ2問目を解いているときに、宮田敦史七段(第10回大会など過去6回優勝)が席を立ったりして、本当にすごいなって思える。藤井さんは小学校6年生のときに初優勝するんですが、宮田さんよりも早く解き終えた。藤井さんは別会場ではありましたが、とんでもないスピードなので、彼が小学生のときから、詰将棋の能力は実感として知っていました。

相崎修司 私も以前から名前は知っていましたが、初めて間近で見たのは、彼が四段になったその日です。マスコミがたくさん押し寄せた三段リーグ最終日。記者会見後、新四段を囲む関係者の打ち上げがあるんですが、そこにお邪魔して、大橋さんと一緒に飲み食いしているところを見ました。

衝撃的なデビューは社会現象となった ©文藝春秋