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「自分の課題は中盤や形勢判断、時間の使い方」

君島 藤井さんは、毎年各媒体に新春用のインタビューなどで抱負や課題について述べていますが、これまでに「自分の課題は中盤や形勢判断、時間の使い方」と述べていました。そもそも中学生や高校生の年代で、自分の課題を明確に挙げて、それに取り組もうとしている姿勢が、なかなか普通じゃないと思いました。

――その課題は、改善されていると思いますか?

君島 ご自身が満足しているかはわかりませんが、現状は、改善していると思います。そもそも中盤を強くなるって、すごく難しいことだと思うんですよ。序盤の勉強だったら定跡を研究する。終盤の勉強だったら、アマチュアの目線からすれば詰将棋がある。じゃあ中盤の勉強ってなんぞやって話になって、ひとつには、棋譜並べもあるでしょうけど、中盤に特化した勉強方法でもないような気もします。こんな難しい課題を挙げて、実際に取り組み、結果を出している。ここが「モノが違う」と感じますね。

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©平松市聖/文藝春秋

相崎 藤井さんの将棋で、大きく騒がれた一手としては、竜王戦の△6二銀があります。

――2019年3月27日、竜王戦4組のランキング戦、中田宏樹八段戦でした。

相崎 ただあの局面は、中田さんが正しく対応すれば、藤井さんの負けは確定しています。だから、あの手を「妙手」と評価するのではなく、私はあの手を指そうと思った勝負術を買いたいと思います。悪くなったときに諦めず、最後まで逆転の目を探す藤井さんの勝負術がグレートなのかなと。羽生マジックも、そういうところがありますよね。

初見でホームランを打っちゃった

 このように相崎記者は「勝負術」ということばを用いたが、君島記者はこれと少し対極に位置するような「自然体の強さ」も感じるという。

 君島 ヒューリック杯棋聖戦の第2局に渡辺さんが採用した急戦矢倉というのは、渡辺さんが実戦では、ほとんどやったことのない作戦なんです。それを敢えて出してきたというのは、かなり戦略的なことだと思うんですよ。

――渡辺さんが戦略的だと。

君島 渡辺さんは、羽生さんや、中原先生といった、他の超トップ棋士と比べてもかなり戦略家だと思います。2局目の先手番で、普段やらない作戦をやってきたのは、けっこう「ひねっている」印象ですよね。野球でいえば、突然、今まで投げていなかったシンカーを投げてきた――といった感じでしょうか。それに対して、藤井さんは、対局後のインタビューで、みんなが目を見張った「△5四金」という手を「やってみたかった手だった」と話しています。

©平松市聖/文藝春秋

――その局面のことを事前に知っていたわけですね。

君島 ある程度、その局面自体を研究していたんですね。ただ、渡辺さんは、戦略的にやったんですけど、藤井さんはそうじゃない。戦略的にその局面を研究したんじゃなくて、普段の将棋の勉強のなかで、自然とこういう手があるということを知っていたんだと思います。つまり急にシンカーみたいな、変わった球種を投げられたのに、初見でホームランを打っちゃった。動体視力がすごすぎるわけですよ。グレートすぎるわけです。

 藤井聡太棋聖の強さの根源を探っていくと、「間合い」「勝負術」「動体視力」と、思いがけないフレーズが出てくるのが、実に面白い。

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