死刑執行が「一歩前に足を踏み出す区切りに」
2008年9月から開始された刑事裁判は、最高裁判所で判決が確定する2012年7月まで約4年にわたって続きました。この間、2008年12月には被害者参加制度が開始され、2009年5月には裁判員裁判も始まり、刑事裁判をめぐる制度は大きく変貌を遂げています。そんな制度の変革期のなかで、富美子さん自身も、精力的に講演活動を続けられ、被害者や被害者のご家族が置かれた状況、死刑基準の問題点を社会に訴え続けられています。
この間、第1審の死刑判決が確定した犯人は、2015年6月に死刑が執行されています。このとき富美子さんは、「一つの命が消えたと思うと、普通の人間なので嬉しいという気持はありませんでした。ただ、一つ大きなことが終ったという気持ちはしました。ホッとしました。娘の惨い姿につながる事件の事は忘れて、笑顔の娘だけを思い出に生きていきたいと思っている私にとって、死刑執行は、事件を離れて一歩前に足を踏み出す大きな区切りになりました」と想いを述べられています。
一方、死刑から無期懲役となった犯人の1人は、その後、闇サイト殺人事件以前に犯していた別の強盗殺人事件で検挙され、2019年8月に改めて最高裁判所で死刑が確定するに至っています。「矯正可能性がある」などとして死刑を回避した当時の第2審判決は、あくまでも今回の事件の刑事裁判で提出された証拠に基づいて判断されたものです。しかし、実際には当時発覚していなかった余罪が既にあり、今回の事件もまた複数実行されていた凶悪犯罪の一つでしかなかったことが明らかになるにつれ、「矯正可能性がある」とした当時の第2審の判決理由には虚しさを覚えざるを得ません。実際のところは「被害者数が1名である」場合には死刑を回避することを前提に、不合理とも呼べる理由を積み重ねて、判決が下されていたとしか思えないことは、これまで述べたとおりです。
1人だけの殺害なら刑務所に入るだけで済む?
犠牲になられた被害者が複数でなければ死刑にはならないという誤った認識のもと、刑務所に入ることを希望して、意図的に犠牲者数を調整のうえ、事件を犯したのではないかと疑いを持たざるを得ない、いわゆる2018年新幹線殺傷事件のような事件も起きています。
死刑基準がひとり歩きすれば、1人だけなら殺害しても刑務所に入るだけで済むという誤ったメッセージを社会に垂れ流すことになりかねません。
人の生命を1人でも奪う凶悪犯罪には、死刑をもって臨むのが原則であるという毅然とした姿勢を社会に発信し続けていくことが、犯行を防止するとともに、社会に対する大きな戒めにもなり、本当に国民にとって安全安心な社会が実現する礎になるのではないかと思わずにはいられません。