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今度は経験豊富な天才棋士が追う側になる

――これから2、3年先には、どうなるとお考えですか。

小島 天才が天才を怒らせたら怖いから、上の世代がもっと巻き返すんじゃないかという気がしています。谷川浩司九段も、羽生善治九段に七冠独占を許して、一時、無冠になりましたよね。でも、そのあとに、竜王、名人とタイトルを取り戻していった。羽生世代が刺激になって、またトップに返り咲いていったわけですから。

小島渉さん。現在は、中継記者として「紋蛇」の名前で棋譜中継をしている ©平松市聖/文藝春秋

 今、タイトルを持っている人は、追われる側じゃないですか。仮に、藤井さんが複数タイトルを取ると、立場が逆転します。今度は経験豊富な天才棋士が追う側になって、挑戦者として思いっきりぶつかってくる。それを跳ね返すのはいくら藤井さんでも大変だと思うんですよ。だから、上の世代の復権があるんじゃないかと私は感じています。

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相崎 私は、今の藤井さんの現在地は、「あり得る可能性のひとつ」ではあったと思います。棋士になって初参加の朝日杯将棋オープン戦を勝つような力を持っていましたからね。仮にそこから半年後にタイトルを取っても、それほど驚きではない。彼がデビュー直後に「すぐに全棋士参加棋戦で優勝する」と言っても、誰も信用しなかったと思いますが……。

――今後はどうなっていくと思いますか。

相崎 今の状況というのは、タイトル戦にしては将棋に集中できていると思います。新型コロナの影響で、前夜祭での挨拶など、タイトル戦に不慣れな挑戦者にとってはプレッシャーになるような状況がないことも、藤井さんにプラスに働いているはず。そうでも思わなきゃやってられない部分もあるんじゃないかなと(笑)。ですから、本当の意味でハードスケジュールになったとき、藤井さんが今のような強さを発揮できるかどうかということが一つのキーなのかなと。渡辺明さんも7年前に三冠を取った時は本当に忙しくなり、「研究不足がその後に生じた不調の一因となった」といっていますから。

元『近代将棋』の編集者であった相崎修司さん。竜王戦、王位戦、女流名人戦などの観戦記を手がけている ©平松市聖/文藝春秋

「10代でプロ棋戦を指せるのはすごく羨ましい」

 ただ、相崎さんは、強い人と指しているこの環境が、藤井聡太を強くしているのではとも分析する。

相崎 藤井さんが四段に上がったとき、奨励会幹事だった近藤正和六段が「10代でプロ棋戦を指せるのはすごく羨ましい」とおっしゃっていたのが印象的でした。つまり、棋士は、強い人と指すことで強くなるわけです。ABEMAさんが、藤井さんのデビュー直後に企画した「藤井聡太四段炎の七番勝負」(増田康宏四段、永瀬拓矢六段、斎藤慎太郎六段、中村太地六段、深浦康市九段、佐藤康光九段、羽生善治三冠と対局して、永瀬六段に敗れたのみの6勝1敗という成績を残す。段位は当時)がありましたが、あのように強い相手と指して強くなった。

 緊急事態宣言後に、強い相手とばかり対局していますが、それによってますます強くなっているのではないかとも感じます。だから、タイトル戦のような大舞台で、強い人と指すことで、これまで以上に強くなることも考えられますよね。

君島 藤井さんがタイトル戦に出てくるのに時間がかかったとみる向きもあると思いますが、羽生さんが初めて竜王のタイトルを取ったのは、棋士になって4年後のことです。藤井さんは、棋士になって4年経ってないですが、3年半くらいですよね。羽生さんと比べても遅いとは思いません。本田奎さん(五段)が、デビューしてすぐに棋王戦でタイトル挑戦したことが大変な快挙というわけです。