文春オンライン

特集観る将棋、読む将棋

藤井聡太棋聖には「羽生世代」に相当するライバルは存在するのか

藤井聡太棋聖には「羽生世代」に相当するライバルは存在するのか

将棋記者が目撃した、天才・藤井聡太の進化 #2

2020/07/23
note

現役の最年少棋士を4年くらいやっている

――2、3年後には、どうなっているでしょうか。

君島 歴史的に見ると、一回抜かれると、抜き返すのは大変。だから先輩方が、抜かれないように踏ん張っている今のせめぎ合いが面白いのかなと思っています。2、3年後とか、もうちょっと先の話でいえば、藤井さんと同世代の棋士が、どれくらい出てきて、どれくらい活躍するのかにはとても興味があります。

君島俊介さん。「銀杏」名義での棋譜中継に加えて、順位戦、棋王戦、棋聖戦などで観戦記を執筆している ©平松市聖/文藝春秋

――ライバルのような存在ですか。

ADVERTISEMENT

君島 羽生さんには、「羽生世代」と呼ばれる棋士が同世代にいて、羽生、佐藤康光(九段)、郷田真隆(九段)、森内俊之(九段)、村山聖(九段)といった人たちと切磋琢磨して、世に出ていった。しかし、今の藤井さんにはそういった存在がいない。藤井さんって、四段に昇段してから現役の最年少棋士を4年くらいやっているわけです。藤井さんの次に若い棋士は、ずっと4歳上の斎藤明日斗さん(四段)で、今年ようやく3歳上の服部慎一郎さん(四段)が加わりましたが、どちらも20代。10代の棋士は藤井さんだけで、同世代の人って、まだ出ていないんですよ。

伝説の「島研」にて、トランプに興じる島朗九段と「羽生世代」の棋士たち(左から順に島氏、佐藤康光九段、羽生善治九段、森下卓九段、森内俊之九段) ©文藝春秋

――それは何か要因があるのでしょうか。

君島 よく棋士よりも強くなった将棋ソフトを活用していることが藤井さんの強さと言われますが、それならば同世代やもっと下の世代からも、プロ棋士が出てこないとおかしい。ソフトを使うというメソッドがあるならば、もっと下の世代が出てきてもいいはずです。でも藤井さんは最年少棋士を4年間もやっている。それはどういうことかといえば、やはりソフトがあるからといって、簡単に棋士になれるということではないということに尽きるんでしょうね。

◆なぜ豊島竜王・名人には勝てないのか

「ライバル」ということばが出てきたので、少しこれを掘り下げてみよう。8割を大きく超える勝率を維持している藤井聡太棋聖は、当然のことながら多くの棋士に勝ち越しているが、複数対局して負け越している棋士が何人かいる。その筆頭が、4度の対局で一度も勝てていない豊島将之竜王・名人である。

――これはやはり相性のようなものなのでしょうか。

相崎 12歳年上の竜王・名人に対して全敗していても、本当はなんら不思議ではないですけどね(笑)。

君島 一方的に負けているのは、現状、豊島さんだけですね。去年は、竜王戦と王将戦の2局やって負けています。うーん。単純に豊島さんが強いというのが、いちばんの要因かもしれませんけど、その要因はなかなかはっきりしませんね。

――では現状、もっとも大きな壁が豊島竜王・名人だと。あと藤井聡太棋聖と複数対局して、勝ち越している棋士は、久保利明九段(3勝2敗)、大橋貴洸六段(3勝2敗)、佐々木大地五段(2勝1敗)でしょうか。

君島 大橋さんは後手番の横歩取りで勝っているんですが、後手番での勝ちに大きな意味があります。藤井さんは、まだ通算で34敗なんですが、先手番に限れば12しか負けてない。そのうちの3回が大橋さんですから、これは大変なことです。