大橋将棋は持ち球が多い
――横歩取りは、最近、減りましたよね。
君島 近年の横歩取りは後手の分が悪く、とくにタイトル戦では、採用率がグッと下がっています。その分が悪いと思われている作戦で勝つというのは、並大抵のことではないですからね。事前準備も含めて、巧みに戦っておられるのかなと思います。
小島 大橋将棋は持ち球が多いですよね。横歩取りもやるし振り飛車もやるし、雁木もやるし。
君島 とくに後手番での工夫が目立ちますよね。
小島 作戦が変わると当然指し方も変わります。それを指しこなしているのは、めっちゃ力があると思いますね。
――大橋六段の勝率も7割を超えていますね。
君島 100局以上指すと、通算勝率7割って保てなくなってくるのが普通なんです。大橋さんは藤井さんと四段昇段が同期で棋士になって4年くらいで、150局以上は指していると思うんですけど、それで勝率7割を超すのは本当に難しいこと。通算勝率が7割を超えている人の数は一桁。今年デビューしたばかりの新人を含めて一桁なんです。そのなかに大橋さんがいるわけですから、それだけ力があることは間違いありません。
なお大橋六段は、現在、藤井聡太を破って駒を進めた王座戦の予選でベスト4に残っている。奇しくも藤井聡太棋聖と同時にプロ入りした大橋六段。年齢は藤井聡太よりもちょうど10歳上だが、これから数多くのタイトルを争うライバルになる可能性を大きく秘めているだろう。
◆まだまだ伸び代がたくさんある
最後に、今の藤井聡太を一言でどう表現すればいいのかを、聞いてみよう。
相崎 将棋界的な言い方をすれば「序盤、中盤、終盤、隙がない」でしょうね(笑)。あとは、安っぽいことばしか思いつかないので、歌のタイトルのようですが「言葉にできない」でしょうか。
君島 そうですね。これでも発展途上。まだまだ伸び代がたくさんあるんだと思いますので「まだ完成形じゃない」というところでしょうか。一言じゃないですけどね(笑)。
小島 藤井さんって、ソフトが挙げた候補手を順番に検討して、その読み筋を飲み込もうとしている感じがするんですよ。そして藤井将棋は一撃必殺みたいな手が少なく、印象に残るのは派手な手じゃない。難解な中盤から終盤の入り口にかけて、じわりとした手を指す。読みの裏付けがあって、派手な手を見送っているのが深い。だから一言でいえば「チャンスだと思って踏み込まないのがワンダホー」って感じでしょうか(笑)。
まだまだ完成形ではないという藤井聡太棋聖――。私たちも、その歩みに取り残されないよう、表現方法を進化させていきたい。なお、一番多く「すごい」を発したのは小島記者だった。