28歳、ブライダルの仕事で君島誉幸氏に出会う。彼女をモデルに選んだのは、のちの義父、君島一郎氏だった。

 誉幸氏とは、結婚を決めるまで数えるほどしか会わなかった。それでも、同じ価値観と女性へのリスペクトを持つこの人とやっていこうと誓った。

 女優もメゾンの妻も、片手間では務まらない。後悔したくない時、彼女の踏み出す一歩は普段の何倍にも大きくなる。十和子は引退を決意した。

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 その後の喧騒は、先述の通りだ。(全2回の2回目/前編から続く)

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不器用さが強さに変換された瞬間

 当時、スキャンダラスに報じられた後に二人が受けたワイドショーのインタビューがある。十和子は強い意志を宿した瞳で大御所レポーターに言った。

「これから起こることは誰にもわかりませんよね。いまは二人揃って乗り越えていこうという決意のもとで私はこの結婚に乗り出したと思ってますので、その覚悟はしております」

 言葉には、食って掛かるような勢いが静かに漲っていた。

「あの時、目前にいる芸能レポーターの方が何を望んでるのか、顔に書いてあったんです。それに負けたらすべて、私だけじゃなく、私の味方になってくれた人さえも傷つけることになると」

 持て余していた不器用さが、類まれなる強さに変換された瞬間である。

女子マインドの夫と、職業婦人だった義母

最新号の『週刊文春WOMAN vol.6 (2020夏号) 』

 結婚から23年。夫の姿は、十和子本のあちこちに登場する。瞼に輝くラメのアイシャドーを見て「砂場で転んだの?」と揶揄し、「ロングヘアがイタくなったら言ってあげる」とお節介もする。

「女子マインドですよね。オフィスから帰る時、エレベーターでふと彼の方を向くと、じーっとメイクのよれた私の顔を見ているんです。『うわっ! 劇的ビフォーアフター』って」

 誉幸氏のエピソードで私が最も好きなのは、「ゆで卵が得意料理」と言って憚らなかった十和子が、ご飯を初めて炊いた時の態度だ。「洗剤で洗ってないよね?」とジャブを打ちつつも、たいそう褒めてくれたという。

 十和子はそれを昔の料理下手エピソードとして披露するが、できることが増えたと手放しで褒めてくれる伴侶の存在は心強い。褒めたのは夫だけではない。義理の母もだ。