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70過ぎの爺さんは孫のような少年棋士にハマってしまった

 ところが、このような私を一人の少年が発した一言が変えたのです。それは「ギョウコウ?」、「ぎょうこう?」、あっ「僥倖」だ! 皆さんよく御存じ、20連勝目がかかった対澤田六段戦に大逆転で勝利したときに藤井現七段が局後の感想で「連勝できたのは僥倖としか言いようがない。」と言ったんです。偶々ネットで大接戦を観ていて、それを「生」で聞いてしまったんです。中学生が「僥倖」って……。大物だ! 天才だ! その圧倒的な本物感に血流が泡立ちました。

 以来、70過ぎの爺さんは孫のような少年棋士にハマってしまったんです。これまでも大山、中原、谷川、羽生各棋士のような有名どころを応援してはいましたが、「藤井く~ん!」的なアイドルの追っかけは初めてです。藤井くんの対局予定をネットで調べては、長時間の順位戦でも朝の10時から夜の12時近くまで観ています。通常はダイニングで食事するのですが、最近は家内も諦めたのかリビングのパソコンに噛り付いている私のためにトレイで食事を運んでくれます。「夢中になって子供みたいにボロボロこぼさないでね!」とのキツイ文句付きで……。

「僥倖」「望外」といた言葉遣いでも注目が集まった藤井聡太四段(当時) ©文藝春秋

 そして対局が終わると必ずソフト解析付きで棋譜を何度も並べます。「一切の努力を放棄する。」私が……努力を努力と感じないんです。ハマってしまえば。

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 特に藤井くんが公式戦で負けた32局(先手10局、後手22局)については覚えるぐらい並べて検討しています。「藤井くんがやってるはずのことをやりたい」のです。同様に、なんと「自らの棋力向上を第一に考える」藤井モードに変わってしまいました。

 その変身した私は、衰えている実戦の勘を取り戻すため(勘がそもそも衰えるほどあった……?)、取りあえずネット対局に挑みました。最初は将棋倶楽部24! 棋力申告は控え目に最低の15級から。

 ログインして対局場に入室すると5秒もしないうちに相手から対局申込みがありました。持ち時間15分、切れたら1分ルールで、受けて立つ。初戦、緊張の一瞬です。自動振り駒で相手が先手になり即、本格的な角道を開ける記念すべき第一手が指されました。

 早速こちらも飛車先の歩を突く、うん? 突く、ツク、ツク……「ウ、ゴ、カ、ン」? なんと「応手を指そうとするも駒が動かん!」のです。「指そうとする駒が赤くなって、ピクっとも前進せん!」のです。5分ほど冷や汗を流しながら悪戦苦闘するも「動いてくれよらん!」。

 相手が待ってると思うと余計に焦る。すると、なんかした拍子にピョコっと動いたぁ!

 目的の駒をクリックして目的位置を再度クリックするのが駒の操作方法だとこの時点で気付く! 私は以前の将棋ソフトと同じ操作だと勝手に思いこみ、駒をドラッグして目的位置に移動させようと苦戦していたんです。何回ドラッグしても動かんはずです……。以降はチョンと駒をクリックし、位置をポチとクリック、チョン、ポチ、チョン、ポチ、チョン、ポチ、……快調に対局終了まで指せました。

 えっ? これって藤井くんの駒の動かし方と全く同じ? チョンとまず駒に触ってからポチっと動かす! あぁ藤井くんもネット将棋を随分やっていたんだなぁと感慨を新たにしました。

藤井くんが好きなものは好き……苦手だった詰将棋も

 また、あれほど苦手だった詰将棋もやり始めたんです(藤井くんが好きなものは好き……)。毎日の散歩に出る前に問題集の一問を選びその駒の配置を覚え込む。そして歩きながらそれを頭の中で駒を動かして解くんです。認知症予防と健康維持を同時に達成できると自画自賛……。

 ところが、これが忘れるんです! 駒の配置を。持ち駒の種類と数も。ご近所の顔見知りとちょっと立ち話しただけで、もういけません。

 でもさすがに3日ぐらい同じ問題をやっていると覚えます。しかし5手詰めが解けません。最初は控え目に3手詰みをやろうとしましたが、問題を見ながら家で覚える途中で解けてしまう(それだけ覚えるのに時間がかかってる証拠とも言えますが……)。

 あまり詰将棋に集中し過ぎて側溝に落ちそうになったこともあります。側溝の蓋も整備されていない地方ではあまりお奨めできませんね。

 あれやこれやで5手詰めも覚えたら3日ぐらいで解けるようになりました。覚えるのに3日、解くのに3日、ほぼ一週間に一問のペースでようやく落ち着いております。

 さて、いよいよ4月初めから中断されていた藤井くんの公式戦が6月には再開されます。長かった藤井対局ロス! 追っかけって依存症の一種じゃないですかねぇ、爺さんでも……?

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