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あれから75年……この時期だからこそ考えたい、広島にカープがある幸せ

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/07

 当コラム公開日の前日、8月6日。この日は、自分の故郷でもある広島にとって1年で最も重要な日。皆さんもご存知のとおり、いまから75年前の1945年(昭和20年)8月6日、第二次世界大戦の中で人類史上初となる核兵器・原子爆弾が投下され、広島の街は一瞬にしてすべてを失いました。こういう書き出しだと「なんか話が重そうだな」と思う方もおられると思いますが、今回は広島とカープについての大切な話です。どうか最後まで読んでください。

 

あらためて噛み締めたい“プロ野球が行われている幸せ”

 2020年6月19日、待ちに待ったプロ野球がスタート。新型コロナウイルスの影響で「最悪の場合、今シーズンは野球が無いんじゃないか?」という声もあがる中、NPBを始め、さまざまな方の努力によって無事に開幕。カープは佐々岡新監督のもと、記憶に新しいあの歓喜、あの喜び、あのビールかけ、つまり「優勝」に向けて走り始めました。6月のカープは5勝3敗1分として勝ち越し。7月はもう少し加速しようと思っていたら……あれ? 加速というか……減速? あれ? なんか負ける! いっぱい負ける! 6月19日に私が書いたコラムでは「開幕ダッシュ・鯉の季節・首位独走」と景気のいい文字を並べていたのに、気づけば最下位に何度も転落するようなチーム状況になってしまいました。

 7月に入ったあたりからカープファンのSNSは大いに荒れ始めます。先取点を取られただけで「またか」。まだ中盤なのに逆転されると「勝てる気がしない」。リードしていても「抑えが不在だから無理」。もっと言えばスタメン発表の時点で「佐々岡、なんだこの打順は」。これらはあくまでも例で、ここに改めて書くことができないような罵詈雑言も山ほど。勝てないストレスが怒りとなって噴出した、まさにそんな感じですよね。もちろん自分も怒りを表に出したことは多々あります。ただ、そういう中で、ふとした瞬間、現状に対する「違和感」を抱くようになったのです。

 たしかに弱い。悔しい。だけど、試合に勝ちと負けがあるのは当たり前のこと。強いに越したことはないけど、でも、でも、それよりもまず今年は「‪コロナ禍‬でプロ野球が行われている幸せ」。それが根本にあって、むしろいまはまだ、その日々を大いに喜んでいい時期なんじゃないかと。8月に入ってから、そんな自分の思いはさらに加速していきました。‬‬

 冒頭で書いた8月6日。75年前のこの時期、広島には「未来」も「希望」もなかったのです。焼け野原になった街に残されたのは「絶望」の二文字だけ。しかし、広島は負けなかった。なにより広島県民には不屈の強さがあった。原爆投下からわずか4年後に「県民みんなのチームを作りたい」と、チームを地元自治体の出資でまかなう計画を打ち出し、オーナー企業を持たない日本唯一の市民球団を広島に設立。それは、まだ街のいたるところに瓦礫が残り、その日を生きるだけで精一杯という人々が多くいる中でのこと。広島は球団設立と共に「復興と蘇生」に向けて動き始めたのです。

 カープはつねに「経営難」という問題を抱え、選手をまともに集めることすらできず、何度も何度も解散の危機に襲われました。しかし、その危機につねに反対の意を唱えていたのが他ならぬカープファン、つまり我々の先輩たちだったのです。選手に給料を払わせるため、選手に満足のいくご飯を食べさせてあげるため、カープファンは自分たちが苦しい生活をしていてもカープに手を差し伸べました。球場の入り口では「カープ救済基金」という文字が掲げられ、球場に訪れたファンや通行人が寄付をする。かの有名な「たる募金」です。