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タコの位置は変わるのだ、愛は変わらずとも

 広島の父は熱いカープファンだった。だった、というのは認知症がじわじわ進行してきているからだ。別の意味で野球ダコが消えかかっている。老々介護の母を今後助けようと私は介護の初任者研修を受けることにした。分厚いテキストと実習、学生に戻った気分。

 介護の講習は朝の9時から午後4時5時までと漫画家生活には無かったタイムスケジュールで進んだ。自分の時間割を作れた漫画仕事とは違い、昼休み時間も決まっている毎日。変化した生活に体を合わせる事に苦労した。自分の弁当作るなんて何年ぶりだ。

 さて、その日の講習が終わりバスに揺られて6時前に帰宅した時一番に思ったことがこれ。

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「やった! ナイターに間におうたで!」

 息の荒いままテレビをつけ画面を観ながら小さいガッツポーズ。そして気づく。

「これってサラリーマンだった頃の父ちゃんの気持ちを味わってないか」

 父の介護のために行動したことで父の野球ダコに触れたのだ。今までそんなタコを味わうことが無かった。

 野球ダコは消えたと思っていた。こりゃ、違うなあ。あれだ、タコがかわったのだ。

 大好きな漫画原稿用紙が廃番になり、在庫も切れたことがきっかけでデジタル作画に変更して2年、また手のタコの位置が変わった。同じ漫画を描いていてもアナログで紙に描いていた時期とパソコンとタブレットで描くいまは力の入れる部分がまた違うらしい。アニメータータコがアナログペンダコになりデジタルペンダコに。描いている絵は同じなのに。変わらず自分の絵なのに。

 野球はかわっていない。試合数が、延長ルールが、CSが、今シーズンだけのものになっても選手のプレーする野球はそのまま野球だ。そしてやっぱりカープが好きだ。

 どうも今シーズンのマイ野球ダコは静かなくせに泣き上戸らしい、ともわかった。

 タコの位置は変わるのだ、愛は変わらずとも。

 新しいタコを捜しに行こうかの。

 必ず見つかる2020タコ。

 もうできとるんかもしらん。

 心の野球ダコは形を変える、だけど消えない。

2020タコ ©石田敦子

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