終息しかけたかに見えた新型コロナの感染が、ふたたび勢いを取り戻している。感染者の増大とともに、医療機関が逼迫しつつあると伝えられる中、国や自治体にはどのような対応が求められるのか。ハーバード大学公衆衛生大学院で臨床疫学を修めた総合診療の第一人者・徳田安春医師(沖縄群星臨床研修センター長)に話を聞いた。(全3回の1回目。#2#3に続く)

※インタビューは2020年7月20日、リモートにて実施

緊急事態宣言下、閑散とする新宿 ©iStock.com

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感染再拡大は“政府の出口戦略の失敗”

──東京を中心に陽性者の数が増えています。「市中感染が広がっている」という見方もあれば、「PCR検査の数を増やしたから陽性者が増えた」という見方もあります。徳田先生は現状をどのように捉えていますか?

徳田 今回の感染再拡大は、政府の出口戦略の失敗です。経済を再開させるときに、「検査・追跡・待機保護」の拡充・整備を徹底せずにおこなったのがその理由です。

 ただ、感染状況はエリアによってかなり異なります。「東京」と一括りにして、全体的に感染が広がっているような言い方をするべきではありません。新宿区(7月23日現在累計1620人)や世田谷区(同796人)のように陽性者が多く、陽性率の高いエリアは、流行しているというべきでしょう。

 一方、同じ区内でも千代田区(同65人)や荒川区(同150人)など陽性者が少ないエリアもあります。また、23区外では八王子市(同120人)や府中市(同115人)を除くとまだ累計100人に達している市町村はなく、奥多摩や小笠原諸島、伊豆諸島など、いまだに陽性者0のところも多い。また、東京以外の地域でも大阪のミナミなど、限られた地域で流行しています。ですから、「国内のいくつかのエリアでは流行している」と言うべきです。

なぜ「陽性者数が増えるのは当然」なのか?

 もう一つ、陽性者の数が増えた理由は、検査の対象基準が変わったからです。当初は37.5度以上の熱が4日間あり、流行地への渡航歴や接触歴がある、といった人にPCR検査の適用が絞られていました。新型コロナを疑う症状があっても基準に当てはまらない人や症状の軽い人は検査できないし、濃厚接触者も積極的に検査していなかった。

©iStock.com

 しかし、今は地域によっては、症状の軽い人や無症状の濃厚接触者にも積極的に検査しています。ですから陽性者数が増えるのは当然で、そのことを政府のコロナ分科会がはっきりと言わないことが混乱の原因になっていると思います。ただし、今でも発熱や咳などの症状があるのに検査を受けることができない状況は続いているようです。