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「右派」と名指された人々が砂漠で次々と餓死……中国共産党による「反右派闘争」とは

『死霊魂』ワン・ビン(映画監督インタビュー)

2020/08/06
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――当初は『無言歌』のリサーチとして始めた取材が、『死霊魂』という壮大な作品へと変化していった経緯を教えていただけますか。

ワン・ビン 当時はまだこの事件について自分でもよく理解できていなかったため、作品を作れるという確信がありませんでした。しかし取材を続けるうち、作品として残しておかなければという気持ちが強くなってきた。そして2014年頃、自分にはこの人たちの証言を作品に仕上げる能力があるはずだという自信を得て、改めてドキュメンタリー映画として作る準備を始めました。収容所では非常に多くの人が死んでいったわけですが、我々はそこで実際に何が起きていたのか、何も知らなかった。それを知りたい、というのが最初の動機でした。彼らはどんな人でどのように死んでいったのか。生き延びた人々が、真実を語ってくれたのです。

 

――劇映画『無言歌』とドキュメンタリー『死霊魂』はまるで鏡合わせのような2作品だと思いますが、監督は、この2作品でやろうとしたことについてどのようにお考えですか。

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ワン・ビン 『無言歌』は原作の小説をそのまま脚色したもので、基本的にその内容には手を加えていません。しかし『死霊魂』は、人間の本質や彼らの経験を映画という形で残すという目的を強く備えた作品です。ですから『死霊魂』を撮るときは、夾辺溝で起きた事件についてどう思うか、『無言歌』よりもずっと深く考えなければいけませんでした。自分自身の歴史観や世界観をより反映させたわけです。

彼らはずっと語りたいことを語れずにいた

――『死霊魂』では、収容所から生還した人々が、みな本当に見事な語り部として自らの体験を語りますね。どのようなアプローチで、あれほど雄弁な語りを引き出していったのでしょうか。

ワン・ビン まず前提として理解していただきたいのは、彼らは本当に凄まじい経験をしたにもかかわらず、長年その不幸な経験を物語ることができずにいた、という事実です。周囲の人々は彼らの声に耳を傾けず、もっといえば、どこかで見下してきた。そういう人々に囲まれて、生存者たち自身もまた、自ら口を開こうとはしませんでした。でも21世紀に入り、中国社会が大きく変化するなかで、彼らもまた自分の心の中にあるものを吐き出しておきたいと思うようになってきたのです。そこに私がカメラを持って会いに行った。純粋な気持ちで彼らの気持ちを聞きたいと望んだ私に対し、彼らはすぐに胸襟を開いてくれました。