――映画のなかでは監督の質問の声は入っていませんが、現場では質問を投げかけたりもしたのでしょうか。
ワン・ビン 私自身がよく理解できないことがあった際には質問することもありましたが、ほとんどの方は自ら熱心に語り続け、一度話し始めると止めようがないほどでした。基本的に彼らはどんなことでも話してくれましたし、私が何か誘導するまでもありませんでした。彼らはずっと語りたいことを語れずにいたわけですから、それは当然です。
彼らが経験したことはいわば同等なのです
――この映画のなかでもっとも心を動かされたのは、夫の横に黙って寄り添う妻の存在です。彼女たちを映そうと決めた理由を教えてください。
ワン・ビン 生存者たちの多くは、ほとんど外出もせず、夫婦二人きりで静かに暮らしていました。共に年老い、死を間近に控えた二人が、部屋に仲良く座っているシーンがとてもいいなと思ったのです。
――たとえ妻自身が何かを証言するわけではなくても、夫と一緒にいる姿を映すことが重要だったということですか。
ワン・ビン そのとおりです。年老いて二人暮らしになっても夫婦が寄り添って生きている。その事実が重要でした。長い年月のなかで、夫婦は多くのことを一緒に経験してきました。妻自身は収容所に行っていなくても、夫と同様に政治的な圧力を受け続けてきた。彼らが経験したことはいわば同等なのです。ですから、たとえ沈黙のままであろうと、夫婦二人が共にいるシーンをカメラに収めることは、映画にとって重要でした。
――撮影スタイルについておうかがいします。カメラはたいてい椅子やソファに座る人々の真正面にあり、そこから動くことはほぼありません。カメラの位置はどのように決めていったのでしょうか。
ワン・ビン みなさんとてもお年を召した方なので、彼らの家に訪問し、そこで撮影するのは当然の流れでした。人様の家にずかずかと入っていくわけですから、撮影の際に勝手きままに動き回ることはできません。それに取材の際はたいてい私一人か、多くても二人程度しか同行しません。撮影中、私は彼らの話に耳を傾けるのに必死でしたから、カメラを動かしている余裕はなかった。自然とカメラは正面に固定することになったわけです。