“今最もチケットの取れない講談師”こと神田松之丞改め六代目神田伯山さん。先ごろ、ご先祖さまが明治時代に南米へと渡って活躍した伝説の格闘家だったことが明らかになりました。しかも本人も長年のプロレス・格闘技ファン。『1976年のアントニオ猪木』『1984年のUWF』『2000年の桜庭和志』などで知られるノンフィクション作家の柳澤健さんとの「異種格闘対談」。(全3回の1回目/#2#3へ)

六代目神田伯山さん(左)とノンフィクション作家の柳澤健さん(右)

NHK「ファミリーヒストリー」に登場した福岡庄太郎の衝撃

伯山 先日はご連絡をいただきありがとうございました。

柳澤 NHKの番組「ファミリーヒストリー」を見て伯山さんに連絡させていただいたんですよね。「神田伯山さんが出ているよ」ってうちの奥さんに言われて番組を見たんです。「えっ? 伯山さんは福岡庄太郎(※)の子孫なの!」(※明治期にアルゼンチン、パラグアイにわたって数々の異種格闘技戦を戦った柔術家。番組内で神田伯山の高祖父だったことが初めて明かされた)。すごく驚きました。

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伯山 よくぞ、そこに引っかかっていただきまして。

1976年のアントニオ猪木』(文春文庫)

柳澤 当然ですよ。僕のデビュー作『1976年のアントニオ猪木』は、プロレスとボクシングの異種格闘技戦を書いているんですから。

伯山 あれは名著ですね。

柳澤 ありがとうございます。猪木のプロレスについての本ですけど、僕は、アリのこともボクシングのことも全部調べて書いたんです。

伯山 とりあえずこの本を読めば、猪木さんがただ「1、2、3ダァー」ってやってるおじさんじゃないことは分かりますよね。しかし、異種格闘技の魅力は凄いです。

柳澤 最新刊の『2000年の桜庭和志』では「桜庭がどんな時代背景の中で、どんな相手と試合をしたか」を書いているんです。プロレスライターが桜庭対グレイシーを書けば、グレイシーはただのプロレス的な悪役に描かれてしまう。だけど僕は「そもそもグレイシー柔術って何なの?」と考えるんです。

伯山 そこにも歴史があるわけですね。大河ドラマだ。

柳澤 いまや世界的な規模になった総合格闘技のUFCはどこから始まったのか。グレイシー柔術を作った人たちの末裔が自分たちの柔術を広めるために始めたんです。グレイシーの人々は、柔術が、異種格闘技戦および総合格闘技において、すごく有効な手段であることを証明した。そのことで柔術(ブラジリアン柔術)は世界中に広まったんです。

伯山 そのグレイシーの一族と日本人が関係あったと。

柳澤 グレイシーに柔術を教えたのは日本人です。明治時代にはコンデ・コマと呼ばれた前田光世に代表される日本の柔術家、柔道家たちが、100年以上も前に世界中で異種格闘技戦を戦ったり、柔術を教えて生活していたんです。