文春オンライン

祖先が“伝説の格闘家”だった講談師と「2000年の桜庭和志」著者が語り合った「柔術というドラマ」

神田伯山×柳澤健 異種格闘対談#1

note

晩年は不遇だった伯山の祖先

伯山 「ファミリーヒストリー」で紹介された、うちの祖先、四代前の福岡庄太郎もアルゼンチンに行って、そののちにパラグアイに渡りました。日本人の入植者がまだ誰もいないときに。パラグアイでは、異種格闘技とかもやっていたと聞きました。当時の「異種格闘技」というのは、勝敗が決まっているものをやっていたんでしょうか?

柳澤 「両方」だと思いますね。ほとんどは真剣勝負でしょうが、たまには結末の決まった試合もあった。少なくとも前田光世の場合はそうだったと聞いています。

伯山 「ファミリーヒストリー」では「何度も何度も福岡庄太郎は立ち上がって、そのたびに歓声が起こった」と紹介されて。いかにもプロレスラーっぽいんですね。格闘家的な盛り上がりというよりも、プロレス的な盛り上がりで。だから両方やっていたのかなと。また最終的にご先祖は、カミさん(マリア・ファナ・ヒメネス)が隣町の警官と駆け落ちするんですよ(笑)。だから庄太郎は晩年は不遇だった。そこも含めて面白いなあと。

ADVERTISEMENT

 

桜庭和志を書くために柔術を学び始める

伯山 柳澤さんは『2000年の桜庭和志』の中でも書いてらっしゃいますが、いま実際に柔術を学ばれているそうですね。

2000年の桜庭和志』(文藝春秋)

柳澤 はい。柔術を学ぼうと思ったのは、桜庭和志の本を書くためです。作り物のプロレスではない、総合格闘技というリアルファイトのことを書くのであれば、ほんのわずかであっても技術を知っておかないといけないと思って。

伯山 自分が柔術を習ってみて「ああ、こういうことだったんだ」と分かったことはありますか?

柳澤 技術を知ると格闘技が違って見えてきます。たとえばUFC1の一番最初の試合の話なんですけど。空手家のジェラルド・ゴルドーが力士のテイラ・トゥリと戦いました。試合が始まると、力士が押して、ゴルドーは逆らわずに下がって金網際まで行くわけです。ゴルドーが自分からスッと下がると、力士はつんのめって倒れてしまいます。 慌てて立ち上がろうとする力士の顔面をゴルドーは全力で蹴るわけです。力士は無防備です。立ち上がり際に蹴られるなんて相撲では全然想定してませんから。

伯山 ああ、そうなりますか。