小池百合子都知事が「“夜の街”要注意」というボードを掲げて「夜の繁華街で感染が増えているので外出を控えてほしい」と呼びかけていることが波紋を呼んでいる。

 疑問を呈するものもあるが、SNS上では支持する声も多いようだ。「じっさい、最近の感染者の多くがホスト関係者というデータが出ている以上、やり玉にあげられても仕方ないのでは?」というわけだ。

小池百合子都知事 ©️時事通信社

 しかしこれは実情を見ないで知事の示す数に踊らされた反応だろう。新宿区などでは、区の要請を受けたホストクラブらが連携して、積極的にPCR検査を受けた。その結果、東京都の陽性者数を一時押し上げたことが報告されている。

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 全体としていまだ日本では十分に検査を受けられる体制にはない。したがって、ある業界が積極的に検査を行えば当然そこの陽性者数は上昇する。このカラクリをどれだけの方が念頭に置いて数字を見ているだろうか。

コロナ禍で再燃する「セックスワーク」への差別

 新宿や池袋などをかかえる区役所が、その土地柄から多い業界に協力を呼びかけるのはありえる方策だし、それに応えたホストクラブらの姿勢は批判されるいわれはない。だが都知事がそれに乗っかって、あたかもその業界だけに問題があるような発言を繰り返すのはどうだろう。

 そもそも「夜の街」などというあいまいな言葉を使うこと自体政治家としての資質が問われるが、多くのメディアもこれにしたがって、「夜の街」があたかも感染源であるかのような報道が蔓延している。

 しかも、菅官房長官まで都と協力して警察官による立ち入り調査を行うことを主張し、たちまち開始してしまった(7月24日)。この立ち入りには法的根拠がないという指摘も一部で出されているが、筆者が懸念しているのはこの動きに対して十分な批判の声が聞こえないことである。

歌舞伎町のホストクラブなどに新型コロナウイルス対策を呼び掛けに回る新宿区の吉住健一区長(左から2人目)ら ©️時事通信社

 批判が広がらない主な理由に、この業界への差別意識がある。「夜の街」を政府は「接待を伴う飲食店」だとしているが、一般的には性風俗産業のイメージがあるだろう。ホストクラブやキャバクラなどだけではなく、ソープランドやイメクラなどの性産業も含まれる。

 こういった職種をフェミニズム的には「セックスワーク」というが、セックスワーカーへは歴史的に差別的な視線が向けられてきた。

 とくにコロナ発生以後、セックスワーカーに対する支援金の支給除外(後に是正)など行政上の差別だけでなく、一般レベルでもSNS上などでセックスワークをめぐる論争が続いている。なかにはセックスワークを否定する専門家が存在し、当事者を傷つけかねない発言が繰り返されている。