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セックスワークが差別される2つの理由

 ではなぜセックスワーカーは差別されるのだろうか? 大きく二つに分けられる。まず第一に、保守的な立場からの差別がある。「売春は悪いこと」「恥ずかしいこと」と考え、それに従事する女性をも偏見の目で見る。これが社会で一番多くの人々が持っている意識だろう。

 またこの立場の中でも、アメリカのキリスト教保守派のように徹底廃止を唱えるものと、建前としては反対するが社会の片隅に存在することは認めるものとあり、日本では後者の意識が強いといえる。売買春は男性の性欲のために仕方なく存在するものだから、売春女性は表に出てきてはいけないとする。

 都知事は以前(1984年)、当時定着していた「トルコ風呂」という風俗施設のネーミングに異議を申し立てたが、名称が「ソープランド」に変更されたらその後介入していない。おそらくこの立場に近い思想だろう。

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 第二に、フェミニズム的な理由によるものがある。「売買春は女性差別」だとし、セックスワークは本質的に女性をおとしめるから廃止すべきだとする主張は「廃止主義(アボリッショニズム)」と呼ばれ、フェミニズム運動のマジョリティを形作ってきた。

 実はこれが新しい形で21世紀に世界的により拡大してきている。売春する女性は罰せず、買春する男性と業者を罰する「スウェーデン・モデル」を掲げる「新廃止主義」だ。古い廃止主義と異なるのは、女性を罰しないという点で、そこがフェミニズムの立場に立つ所以である。

 この4月23日にナインティナインの岡村隆史氏がラジオ番組で「コロナが明けたら可愛い人が風俗嬢やります」などと発言して大きく炎上した。

 この発言自体に新奇さはなかったが、大きな批判を浴びた背景には、昨今のフェミニズムの広まりと日本でも新廃止主義が普及しつつある兆しを感じさせた。たとえば、NPOほっとプラス理事で貧困問題に取り組む活動家の藤田孝典氏もこの新廃止主義に立ち、性産業を批判している。

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 昨年11月にも有名フェミニストである上野千鶴子氏が「セックスワークは自分の肉体と精神をどぶに捨てるようなこと」と発言した

 上野氏は昔「セックスというお仕事」を認める発言を行って(朝日新聞1994年6月22日夕刊)議論を呼んだ。そのことからすると整合性がつかないのだが、新廃止主義の世界的な流行を受けて論旨を変えたのだろう。1990年代は日本でセックスワークを肯定する主張が広がりだした時期だが、その後複雑化している。