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価値観を他人に預けた幸せは、幻
一方、誠実なヒロセさんとは強く惹かれ合う。しかし、ヒロセさんはダルちゃんに残酷な言葉も投げかけるのだ。詩を書くのを「やめて欲しい」と。
「大好きな人がいる。自分が心からやりたいことがある。そのときにどんな選択をするかも大きなテーマでした。だから、ヒロセさんは、自分ではどうにもならないコンプレックスを抱えているけれど、表現する人の衝動や心情はむしろ深く理解してくれている人物にしようと。その方が、葛藤が大きくなると思ったんですね」
引き裂かれる思いの中で、ダルちゃんがたどり着いた決意と気づき。〈私を幸せにするのは私しかいないの〉。ここまで読んできた読者からするとあまりに切なく、だからこそ感動的だ。
「わかりやすい女の幸せに、ハイスペック男を捕まえて安泰みたいなのがありますが、それを幸せと呼ぶのは、そのことに心から納得できている場合だけだと思うんです。他者や世間に価値基準を合わせて、自分をごまかした先に幸福はない。これは全編を通して伝えたかったことでもあります」