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「私には何もない」なんて絶対ない “普通の女性”に〈擬態〉するダルちゃんを通して伝えたかったこと

2020/08/10

source : 週刊文春WOMAN 2019GW号

genre : エンタメ, 読書, ライフスタイル, 社会

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〈擬態〉しすぎると、自分を見失う

 そんなダルちゃんが変わるきっかけとなる人物がふたりいる。

 ひとりは、会社の歓迎会で営業のスギタに蹂躙されるダルちゃんを救い出し、のちに詩を介して親しくなる経理のサトウさん。もうひとりは、ダルちゃんたち派遣社員をまとめる事務方トップの後任で、恋人となるヒロセさん。

 だが、味方たるふたりと、ダルちゃんはすんなり仲良くならない。それどころかサトウさんに対しては〈誰かを嫌いになったことのないダルちゃん〉が、初めて「嫌い」という強い感情を抱くのだ。

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歓迎会で営業のスギタに蹂躙されるダルちゃんを、サトウさんは怒った様子で外に連れ出す。 ⓒはるな檸檬/小学館

「あれは意図して描いたのではなく、自然発生的なんです。ダルちゃんを悩ますスギタの一件は、お酒の席での“女性あるある”を描こうとしたというより、ダルちゃんのような反応の方が“あるある”じゃないかなと思ったんですね。自分の気持ちをごまかしたり、自分を否定されたくないから、注意してくれた人を拒絶してしまう」

 はるなさん自身、サトウさんと自然に仲良くなるだろうと思っていたので驚いたシーンだという。

昼の屋上でサトウさんは詩集を読んでいた。ⓒはるな檸檬/小学館

「コントロールのできなさ加減がすごかった(笑)。私がこれまで描いてきたようなギャグも好きだけど、人間同士のぶつかりあいや、どろどろした内面を吐露していくストーリーマンガも憧れでした。ネームを切って編集さんに見てもらったこともあるんですがうまくいかなくて。編集さんの『キャラが自分でしゃべり始めるまで待て』というアドバイスは、これなんだなと、初めて実感したんです」