詩で絵を補足していた美大生時代
はるなさんは、美大受験の前、東村アキコ著『かくかくしかじか』に日高先生という名前で登場する美術の先生の指導を受けたそう。
「どんなに細かいレベルでも嘘をつかない。正直にありのままで生きているこの先生にはすごく影響を受けていると思います」
ちなみに、作中には、ダルちゃんが書いた詩がいくつか出てくる。とても繊細で、沁みる詩だ。
「あれは詩としての完成度よりも、詩と向き合うときのまっさらな心や、恋に落ちたときの喜びなど、場面場面で、ダルちゃんの心情が伝わりやすい塩梅を探り、ちょっと計算して書いています。実は私も美大生時代に、表現したいものに絵が追いつかないとき、補足で詩を書いて添えたりしてたんです。十何年ぶりに『恥ずかしー』と思いながら書きました(笑)」
「いま子育て中で、4歳の我が子やその友達を見ていると、1、2歳の子でもひとり残らず『これが好き』がはっきりあります。『私には何もないから、ダルちゃんのように何か見つけなきゃ』ではなくて、誰もが本当はすでに持っているのに、好きな気持ちを邪魔する自分がいるだけだと思う。料理が好き、でもいい。何かにときめく気持ちや夢中になるものがない人はひとりもいないはずだから、それを思い出してほしいですね」 ダルちゃんの場合は、好きなこと、表現したいことが詩にあったが、詩作はあくまで作品のツール。
ラスト近くで、ダルちゃんはこう思う。〈私は、私をあたためることができる(略)それが希望でなくてなんだろう〉。胸に刻んでおきたい、お守りのような言葉にたくさん出合えるコミックだ。
text:Asako Miura
はるな檸檬/Lemon Haruna
1983年宮崎県生まれ。漫画家・東村アキコのアシスタントを経て、2010年、宝塚ヲタクの日常を描いた『ZUCCA×ZUCA』(全10巻)でマンガ家デビュー。『れもん、よむもん!』『れもん、うむもん!─そして、ママになる』など、読書遍歴やマタニティブルーといった、自身の体験をベースにしたエッセイコミックでも人気を博す。