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最善を追い求める過去の積み重ねがあったからこそ

 ポーカーを非常によくプレイする有名な投資家がいる。彼いわく、

「ポーカーや麻雀は、最善を尽くした後は運に任せるしかない。それがポーカーのツラいところでもあり、楽なところでもある」

 とのこと。

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 最善を尽くしても負けてしまうこともあるのがポーカーだ。逆に言えば、悪手を選んだのに運良く勝つということも日常である。

 一方将棋は本当に最善を尽くせば運悪く負けてしまうということはない。その代わり最後まで自力で勝ちきらないといけないのだ。

 読みきれない状態で指して、間違えていたら一気に負けになってしまう。それを良しとせずに最善を追い求める過去の積み重ねがあったからこそ、永瀬と豊島はこの場で対局しているのだ。

対局開始前の両対局者を観戦する筆者(中央奥) ©文藝春秋

 筆者なら、堅実に行っても五分、攻めて勝てる可能性も五分だと思ったら読みきれていなくても攻めてしまう。それが将棋のアマチュアの特権でもある。一方でそのような開き直りと運悪く負けてしまうことへの諦観は、勝ち負けに運の要素がからむポーカーや麻雀においては非常に大切なのだ。

 ここで、AIが千日手の順を最善と示す。人間には非常に選びにくい順だ。解説、控室の両方から悲鳴があがる。

 佐藤天彦九段は「流石の軍曹(永瀬の愛称だ)でもこれは選ばないでしょう」と。

 その言葉通り、永瀬は自然に豊島玉に攻めかかる。

声を発する時はマスクをするのが新時代のマナー

 1分将棋の中、豊島は上部への脱出の含みがある手を指す。盛り上がるニコニコ生放送のコメント。悲鳴のあがる控室。

 しかし、終局は突然やってきた。

 一瞬のスキを突いて、永瀬が盤上と持ち駒の2枚の桂を捨てて豊島玉に攻めかかり、あっという間に豊島玉に必至がかかったのだ。永瀬玉に王手は続くものの、はっきり詰まない。読み切りである。

 負けを悟った豊島は、水を飲んだ後、鞄からマスクを取り出す。

 声を発する時はマスクをするのが新時代のマナーである。ニコニコ生放送でも「投了マスク」とのコメントが多数。そしてその通り、豊島が投了した。

▲3三角成まで113手で永瀬叡王の勝ちとなった ©文藝春秋

 感想戦は、対局者から2メートルほどの距離にいた筆者にも聞こえるかどうかという小声で1時間ほど行われた。

 局後の勝利者インタビューで永瀬は、

「今日食べたバナナは2本。バナナを食べだしてから1勝、2勝と挙げることができたので、バナナを欠かさずしっかり食べて」

 と頑張ることを表明した。

勝利者インタビューでは、最近も欠かさず週刊少年ジャンプを読んでいると明かした永瀬叡王 ©文藝春秋

 これで対戦結果は第5局を終えて永瀬の2-1。本来であれば既に決着がついているか、片方がタイトル獲得まであと1勝となっているはずだが、この二人はこれから何局指すつもりなのだろうか。次戦以降も非常に楽しみである。

INFORMATION

第5期叡王戦七番勝負第5局 棋譜
http://www.eiou.jp/kifu_player/20200723-1.html

第5期叡王戦七番勝負第6局(2019年8月1日13:30放送開始)
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326756293

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