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暴力団社会の差別と優遇

 暴力団社会は実力主義であり、彼らも出自を隠蔽してはいない。どれだけ隠したところでトップの名前はことあるごとに取り上げられ、多くの場合、渡世名と本名が併記されるし、警察関連のホームページなどでは、日本名はまったく無視なので、隠しようもない。

 帰化しようと考えている暴力団員は多いが、暴力団員は国籍法第5条の「素行が善良であること」という条項に抵触するため帰化申請ができないのだという。

 同様にどの団体にも、幹部や組員にはかなりの在日韓国・朝鮮人がいる。正確な統計はないが、1998年に週刊誌がアンケートを企画した際、200人あまりの暴力団員に協力してもらったところ、12%弱が在日韓国・朝鮮人だった(うち韓国籍が8割。中国籍はゼロ)。地域や組織によって差はあるがヤクザたちに訊くと、「ざっと2割程度」と答える人間が多い。

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 被差別部落の出身者も一定程度は存在するはずで、それは暴力団たちが「あいつは部落だ」と教えてくれるためわかる。いわれなき差別と無縁のはずの暴力団社会にも、そういった類の偏見がけっこうある。

 組織内部の派閥を考えるとき、これがヒントになることもある。差別というより優遇で、同じ実力の幹部が拮抗しているとき、同胞を選び、やっかみが出る。利権の構図もこうした背景からの考察が欠かせない。大阪ではかつて、同和利権を制するものがヤクザ社会を制すると言われていた。現代暴力団のシノギは、小売店からのみかじめ料といったちんけなものではなくなった。

暴力団社会でも「差別」はご法度

 差別意識があるかどうかはともかく、そう取られかねない言動には注意する必要がある。朝青龍が横綱だった頃、とある記者と一緒に出かけた先は、親分が在日だった。相撲の話になったとき、この記者が「やっぱり相撲では日本人力士に頑張って欲しいですよねぇ」とこぼした。

「そうだなぁ、国技だからな」

 親分はさらっと流していたから、気にしすぎかもしれない。ただ、我々の年代でこうした差別を暴力団となった理由には出来ないと思う。現代で差別というエクスキューズは通用しない。

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鈴木 智彦

文藝春秋

2011年2月17日 発売