“ピンポーン”
すかさずドアを開ける。
“タタタタ、ガチャ”
幼稚園児のような子供が角部屋である奥の部屋へと消えていった。どうやら同じフロアの角部屋が、水商売のシングルマザーたちの託児所になっていたようである。
彼女がおかしなことを言い出すようになった
原因がわかって胸を撫で下ろしたカトウさんだったが、今度は部屋に遊びに来ていた彼女がだんだんとおかしなことを言い出すようになった。
「カトウさんの家に行くとお母さんに怒られるの」
カトウさんが当時付き合っていた彼女は、京都の名家の出身で、実家の玄関には大きな“守り石”と呼ばれる石が置かれていた。母親は“見える人”であるようで、家に帰ると「またカトウさんの家に行ったでしょ」と、毎回当てられてしまうという。
「あなたがカトウさんの家に行ったら余計なものを連れて帰って来るから、私がいちいち祓わないといけないの。だからもうあそこに行くのはやめなさい」
彼女の母親によると、その土地自体が霊道になっており、マンションは霊の溜まり場になってしまっているという。さらにはマンションの近くに霊道の入口になる祠があるはずだと言うので、カトウさんが改めて近所を探索すると、それまで気づいていなかった場所に本当にお地蔵さんが建てられていることが判明して、ゾッとした。彼女の母親は、ここに来たことなどないはずなのに……。
「幽霊がいる、幽霊がいる」
彼女はそれでも、カトウさんの部屋に行くのをやめなかった。ある日、カトウさんが仕事から帰ってくるまで、彼女は部屋で留守番をしていた。その際、部屋の四隅に蝋燭を立てて燃やし、結界を張ることを試みた。しかし、何度やっても一箇所だけ蝋燭が必ず消えるので、不安になってカトウさんに電話した。カトウさんは「俺の居ない間に勝手なことするのやめて、怖いから。蝋燭、禁止ね」と彼女に言った。
また別の日には、仕事から帰ると彼女が「幽霊がいる、幽霊がいる」と震えていた。「どこにおるん?」と聞くと、彼女は2つある窓の両方を指差した。
「こっちに1人……男の人が覗いてる。こっちの小窓には女の人がいる」