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「買い取る意向はない」とほのめかすPOSCO

 対象となる日本企業へ賠償を求める元徴用工訴訟が日本で始まったのは1997年。2003年に日本の最高裁判所で敗訴が確定したが、2年後の05年には韓国での訴訟が始まった。一審、二審では原告が敗訴となったが、反転したのは2012年。韓国の大法院(最高裁判所)は二審判決を破棄し、ソウル高等裁判所へ裁判の差し戻しを命じた。13年の差し戻し審で被告の新日鉄住金(現日本製鉄)は敗訴し、大法院へ上告していた。そして、2018年の運命の判決へと続いた。中道系紙記者は言う。

「この判決を一番怖れていたのは(韓国)政府かもしれません。韓国は盧武鉉元大統領時代の過去史清算事業の際にも強制動員の賠償問題(徴用工問題)は韓日請求権協定に含まれたとしましたし、以来、韓国政府はずっとその立場をとってきましたから。ただ、司法の判断に政府は介入できないのは日本も同じでしょう。

 それが、妙案が出ないままずるずると引き延ばした。韓国政府にもその責任はありますが、日本が輸出規制という報復措置をとったことで問題が別の次元でこじれてしまった」

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韓国最高裁 ©AFLO

 韓国で注目されているPOSCOは、「日本製鉄が保有しているPNR株を買い取る意向はない」(亜州経済、7月31日)ことをほのめかしている。前出記者は言う。

「POSCOにしてみれば、買い取れば日本からは反日のレッテルを貼られ、買い取らなければ、韓国から親日のレッテルを貼られることになる苦しい立場です。韓国政府も日本政府も触りたくない火中の栗をPOSCOが拾うでしょうか。決定的な瞬間までは静観を決め込むと思います」

日本製鉄は即時抗告する方針

 昨年末に提案され日韓政府が前向きな姿勢を示した通称「1+1+α(日本と韓国企業の自発的な寄付金と個人からの寄付金)」の文喜相前国会議長案は前国会で破棄されたが、6月から始まった今国会で再び、野党の保守系「未来統合党」議員らにより発議されている。ただ、この案も訴訟を起こしている被害者側から「被害者の清算にすぎない」と反発されており、実現するかどうかはかなり厳しい。

 差し押さえられた日本製鉄の韓国内資産の売却命令に対し、日本製鉄は即時に抗告する方針を明らかにした。8月3日に原告代理人が発表した資料によると、現在、株式鑑定の手続きが進んでいて、日本製鉄へはこれに異議申し立てを求めることができる債務者審問書の公示送達の手続き中だという。「どれだけの時間がかかるかは分からないが、年内の現金化は難しいのではないかといわれている」(前出記者)。

 韓国では日本は売却命令の有無にかかわらず対抗措置をとるだろうという報道が流れているが、「圧力をかければ引き下がるという考えは捨てたほうがいい」と崔弁護士は話しており、原告代理人はこう見解を明らかにした。

「日本政府は最近現金化について追加の報復措置を言及しています。国家の最高裁判所が確定した判決により該当国家の裁判所が進めている適法であり正当な執行手続きについて他国が報復をすることは違法であるだけでなく、非理性的です。

 それだけではなく、この差し押さえ命令の効力はすでに2019年1月9日に発生しており、2020年8月4日にこの差し押さえ命令についての公示送達の効力が発生したことにより日本製鉄に新たに生じる不利益はありません。日本政府は今回の公示送達をもとに違法な報復措置をとるべきではないでしょう」(8月3日、原告代理人による説明資料より)。