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元徴用工訴訟・日本製鉄の資産が今日から現金化可能に 「彼らさえ動けば……」原告側が語る“落とし所”

2020/08/04
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「POSCOが国民に説明すれば、被害者も納得する」

 前出の崔弁護士の話を再び引こう。

「日本製鉄は2018年の大法院(韓国の最高裁判所)の判決前までは話し合いには応じてきてくれていた。ところが判決が出た後、一切応じてくれませんでした。門前払いです。

 原告代理人側は円満な解決を求めていました。

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 それが、日本政府は日韓請求権協定で解決済みというガイドラインで日本製鉄に圧力をかけて話し合いに応じないようにしている。しかし、今回の訴訟は、今も有効な個人請求権による、個人と企業の民事訴訟です。行政は司法に介入できません。

 このままの状態が続けば解決はできない。ですから、日韓の経済協力金でできたPOSCOが日本製鉄の代わりに動くべきなのです。POSCOがきちんと国民に説明すれば被害者も納得することができる」

会見に出席する原告代理人ら ©AFLO

「話し合いで解決できるように待った。でも外務省が……」

 朴槿恵前政権で先送りされていた徴用工訴訟が大きく動いたのは、2018年10月30日。元徴用工4人が日本製鉄(当時の新日鉄住金)に「精神的被害に対して」賠償請求していたこの裁判で、韓国の大法院は原告の訴えを認め、日本製鉄へ元徴用工一人当たり1億ウォン(約900万円)の賠償を認めた。判決は、「原告の慰謝料請求権が(日韓)請求権協定の適用対象に入っていたとみなすことは難しい」とした。

 日本政府は判決後すぐに、「(徴用工賠償問題は)1965年の日韓請求権協定で解決済み」との立場を明らかにし、韓国政府に対応を求めた。しかし、韓国政府は「司法の判断を尊重する」という姿勢で、対応策がでないまま、年を越した。この間、原告側代理人は2回ほど日本製鉄本社を訪れたが、話し合いには至らず、2019年1月には日本製鉄の韓国内資産の差し押さえが認められ、5月には原告が裁判所に資産の売却を申請。

 日本製鉄には、差し押さえ命令を決定したことなどの書類が送られたが、外務省からは返送され、再送したが返答はなかったという。「こちらはもっと早くに執行できましたが、話し合いで解決できるように待った。ですが、(日本外務省は)通達してくれなかった」と崔弁護士は言う。

 この6月1日、大邱地方裁判所浦項支部は日本製鉄に関連書類が届いたとみなす公示送達手続きを行ったが、その効力が発生するのが8月4日0時だった。この日を以て公示が日本製鉄に送られたことが認められ、韓国の裁判所は差し押さえた日本製鉄の韓国内資産の売却命令を出すことが可能となった。