日本でも人気が続いている韓流ドラマ「梨泰院クラス」。このドラマを演出し、韓国はもちろんアジアでも大ヒットさせたのが、韓国ドラマ界で“神の手”とも呼ばれる名物監督キム・ソンユン氏だ。

 韓流ドラマの定番テーマである「復讐」という素材を、感覚的な演出でクールに描き出すことで青春モノの成長物語として成功させたキム・ソンユン監督に、「梨泰院クラス」の製作の舞台裏、主演のパク・ソジュンさんの素顔、さらには日本のファンへの思いまでを聞いた。

主人公のパク・セロイ(パク・ソジュン)(Netflixオリジナルシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中)

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なぜ「梨泰院クラス」をドラマ化したのか?

——「梨泰院クラス」は有料読者1000万人の大ベストセラーとなったウェブコミックが原作です。どんな魅力に惹かれてドラマ化を決めたのですか?

「『復讐と成功』の物語は、これまでの韓国ドラマでも多く取り上げられた素材ですが、私がこの原作に惹かれたのは、ストーリーというよりキャラクターの魅力からなんです。いかなる苦難にも、信念を曲げない主人公のパク・セロイ(パク・ソジュン)をはじめ、天才的な支援者でありソシオパスのイソ(キム・ダミ)、そして『クルバム』(セロイが経営する店。ドラマでは『タンバム』)の仲間、『長家』一族など、一人一人が個性的、魅力的なキャラクターで溢れているのが、この原作の強みです。復讐モノですが、『既成世代』に対する若者たちの反抗の物語でもあるという、原作のメッセージも気に入りました。

イソ(右)とグンス (Netflixオリジナルシリーズ『梨泰院クラス』独占配信中)

 問題は、キャラクターの魅力を生かしながら、原作のスピード感をそのままドラマに持ち込むことでした。すでに、市場性が検証されたベストセラーのウェブコミックが原作だといっても、ドラマとは“呼吸”が異なるため、脚色が容易ではありませんでした」

——脚本は、ウェブコミックの原作者が担当しました。原作者が直接脚本を書く長所は何でしょうか?

「韓国の連続ドラマでは、原作者がドラマの脚本を書くことはほとんどありません。ドラマと原作となる文学作品とは、呼吸が全く違うからです。例えば、原作をドラマに脚色すると、絶えず縦糸と横糸のように組み込まれている人物間の感情線を、ドラマの“呼吸”に合わせて再構成する必要があります。その過程で、主人公の感情線が一つだけ変わっても、それによって『蝶の力学』のように人物間の感情ラインが変わってしまい、原作から遠ざかってしまう恐れがある。一つの設定を変えるだけでも、原作の魅力を失ってしまう危険性が大いにあるのです。

キム・ソンユン監督(中央)

 今回の『梨泰院クラス』のように、叙事がしっかりしていてキャラクターが魅力的な作品は、原作の雰囲気をそのまま持っていくのがいいと判断しました。原作者のクァンジン氏に会ったとき、原作で果たせなかったエピソードや、心残りになっている部分があることを聞きました。(ドラマで)その部分を埋めることができたらと、クァンジン氏と意気投合しました。結果は期待以上でした。原作と違う点はいくつかあったのですが、それはエピソードの補強や、テンポを維持するために補強や省略をした部分。原作者が直接脚本を書いたので、原作の筋に沿っている作品になったと思います」