血濡れた赤ん坊の生首を手につかんだ般若
《「百物語」お岩さん》のお岩さんとは、『東海道四谷怪談』の主人公。仮の夫婦になった浪人民谷伊右衛門に毒を盛られ、恨みながら死んでいったゆえ、亡霊となって現れる。描かれた場面は、お岩さんの霊が提灯に乗り移ったところである。
《「百物語」さらやしき》は、旗本の家に仕えていたお菊が折檻されて井戸に落とされ、のちに現れた亡霊の姿を描く。大事な皿を割ってしまった咎を受けたお菊の幽霊は、首が皿を連ねたかたちとして表現されている。
《「百物語」笑ひはんにや》は、血濡れた赤ん坊の生首を手につかんだ般若が、耳元まで裂けた口を広げて笑っている衝撃的な絵柄。生首の傷口があまりに生々しく真に迫っていて恐ろしい。
《「百物語」しうねん》は、嫉妬に狂った死者の魂が、蛇の姿になってこの世に甦ってきたさまを描いている。この蛇の執念深さは、位牌を立てて供養されてもなお収まりがつかないところからもよく察せられるのだった。
いやどれも、迫力満点である。細かく写実的に描かれているというわけではないのに、ひじょうにリアルなものが図柄から読み取れる。おそらくはそこに登場する人物やその霊の恨みつらみ、怒り、嫉妬、情念がひしひしと感じられるからだ。
つまりはそう、げに怖ろしいのは、人の情というわけである。
忘れてはいけないのは、ここに掲げたのはアダチ版画研究所によって、令和の時代に新しく摺られた浮世絵であるということ。なのでもちろん販売もしている。
これらの怖い浮世絵、身近なところに置いて、実際に手に取ったり飾ったりすると、納涼にはもってこいになりそうだ。