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加害生徒には「もっとひどいいじめじゃないと」

 容姿は櫻井翔、受け答えも明朗快活である吉本にホッとする両親だが、ロボットの真似をしてまともに挨拶しようとしない茂之にいきなりビンタを喰らわせる。これを合図に彼の教育と指導が始まるわけだが、学校に行こうとせずに引きこもる茂之の部屋の窓を鉄板で塞ぎ、ドアを暗証番号付きの鋼鉄製のものに変えて音を上げるまで監禁、彼が学校でいじめられていたのを知るや加害生徒たちに「君たちのやり方は間違っている。もっとひどいじめじゃないと茂之君は屈しないよ」と叱咤、さらに茂之には生徒である以前に“犬”となって服従することを強いる。

忽那汐里 ©︎getty

 また、茂之以外の家族の行動を監視してはことあるごとに写真を撮り、自分を怪しむ慎一には彼が万引きしている現場の写真を見せつけて黙らせ、一茂には浅海舞香(忽那汐里)という女性を使ったハニートラップを仕掛け、それを弱みにして操りまくる。

「あれでやめようと思った、役者を」と思いつめた松田優作

 過去作を振り返ると、松田優作が吉本を演じたのは、1983年6月4日に公開された映画版。アクション俳優から脱却すべく、鈴木清順が泉鏡花の同名小説を実写化した『陽炎座』(81)に出た松田だったが、それまで自分が身を置いてきたアクションやハードボイルドとはあまりに乖離したアーティスティックな世界で演技することに戸惑って自信を失くしていた。

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「あの時期、芝居がわからなくなってしまったとかね、はっきり自分のなかで自覚症状が出てきた。芝居がおれはできないなとか……。だから、あれでやめようと思った、役者を」(※2)とまで思いつめた彼は、一旦映画を離れてテレビドラマで俳優としてのあり方を模索する。

映画『家族ゲーム』DVD

 そんななかで『家族ゲーム』の脚本と出会い、監督の森田芳光へ猛烈なラブコールを送って2年ぶりの映画主演を果たしたのが同作だった。ボソボソとした話し方、鋭くて冷たい目、183cmの長身から放たれる威圧感といった個性をフルに活かし、得体の知れない家庭教師・吉本を怪演して高い評価を獲得。アメリカでの映画公開とともに現地で取材を受けた松田は、「今回、オレは意識の確認ができたね、どっかで。それはやっぱり、自信というよりも、おこがましいけど、自分でやっていくということが、確認できた」(※3)と話した。これを機に演技派として広く認められることに。

長渕剛が役者としての才能に目覚めた『家族ゲーム』

 長渕剛が吉本を演じたのは、1983年8月26日から9月30日にかけてTBS系で放送されたテレビドラマ版。『3年B組金八先生』シリーズなどを手掛けた名プロデューサーの柳井満からオファーされるものの演技未経験で自信がないと断っていたが、彼の熱意に押されて出演する。この体験によって長渕は俳優としての才能にも目覚め、『家族ゲームII』(84)、『親子ゲーム』(86)、『とんぼ』(88)とヒットドラマに連続して主演。『男はつらいよ 幸福の青い鳥』(86)や『オルゴール』(89)で映画にも進出したが、それも『家族ゲーム』があったからこそだと以下のように振り返っている。

長渕剛(左)

「僕は『家族ゲーム』の頃から編集室にも出入りしてたんですよ。撮影していた緑山スタジオって他にやることがないからスタジオにあった編集室やMA室に断りもなく入っていた(笑)。自分が演じたテイク1からテイク4が、どう選ばれて、どう繋げられて、どう音を重ねられていくのかを見せてもらった。それが面白くてね。(中略)そこでなにからなにまで学ばせてもらいましたね。後の映画やドラマでリアリティを追求したいがために自分で殺陣を付けたりしたのも、そういう経験があったからこそです」(※4)