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再放送ドラマ『家族ゲーム』 「いわゆる“俳優”ではない」櫻井翔を“狂気と病んだ演技”に駆り立てたもの

2020/08/12
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櫻井の薄笑いと「キャハハハハハハハハ!」にゾッと……

 松田優作と長渕剛の吉本は破天荒であっても落ちこぼれの少年を引き上げようとしていたが、櫻井の吉本は茂之をとことん引きずり下ろし、沼田家そのものを壊すことを楽しむ残酷な“家族ゲーム”に興じているようにしか見えない。

 狂気の矛先は沼田家の面々のみならず観ている側にも向けられ、辛辣なセリフと不気味な演技で揺さぶる。

「友達親子ってあるじゃないですか。あれって、体のいい育児放棄だと思いません? 子供のことが可愛くて仕方がないから彼らの世界には深入りをせず、外から温かく見守る。でも、それって要は叱って嫌われたくないだけでしょう?」

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「ずっと前からお前は負け犬だったろ。家に引き籠っていれば、なにかが変わると思ったか? 時間が経てばすべてが解決すると思ったか? 甘いんだよ。いじめは続くぞ。お前が死ぬまでな」

©JMPA

 といった沼田家に浴びせる真を突いた言葉にはハッとしてドキッとしてしまう。また、そんな言葉に狼狽する彼らの姿、家族のほころびや歪みを見出した時に「いいねぇ」と言いながら浮かべる薄笑いと「キャハハハハハハハハ!」とあげる甲高い笑い声にはゾッとしてしまう。周到な計画を立てて沼田家に取り入っていくさまは『パラサイト 半地下の家族』、一家の表面的な幸せが壊れていくさまに笑みを浮かべる姿は『ジョーカー』まで思い起こした。

「吉本役をやってることが若干マインドに影響してて」

 この“病んだ”演技は相当なもので、当時のインタビューで取材時の口調が強いことを指摘されて「吉本役をやってることが若干マインドに影響してて、ちょっと当たりが強くなってるのかなと思う」と謝罪しているほどである(※5)。

©JMPA

 物語はサスペンス調となり、吉本は家庭教師ではなく“家庭破壊者”と呼びたくなる人物に。ここまで旧版と打って変わっているのは何故なのか? そこには両バージョンへのリスペクトとそれを越えようとする櫻井の想いがある。