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 暴力団からのリークには、隠された国や企業の不正がある。それはそれ、これはこれ、として報道出来るならいい。しかし、暴力団の目的は、それを材料に金を引き出すことだ。恐喝に成功したときは、記事を出すのもやめなければならない。巨額の金が絡んでいる中、暴力団の指示を無視すれば笑えない結果になる。最初からどこまでも書くと宣言すればともかく、だまし討ちをすれば、暴力団からの制裁を覚悟しなければならない。

 2009年末、大々的に報じられた鹿島建設の砂利転用問題のときは、とある総長から直々に頼まれた。詳細な資料を手渡されたが、シュレッダーに直行した。直後、この総長は破門になってしまった。この件に関係しているかどうかは分からない。

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 書けないことは書けない。

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 そうした事情は暴力団側もよく分かっていて、彼らが無理を言うことはない。依頼を断ると不信感を持たれるが、それは致し方ない。

「しょせんお前らはマスコミだからな」

 という暴力団からの非難は、そのあとに「仁義のかけらもない外道」という言葉が隠されている。こう罵られるたび、私は自分が最後の一線を越えていないことを再確認し、安堵する。

暴力団に迫るライターとして生き続ける困難さ

 2008年、アメリカのメディアが山口組直参の後藤組後藤忠正組長がFBIと協力してアメリカで肝臓移植を行った疑惑を報じた。私もそれを取材したアメリカ人記者から談話をとり、記事を執筆した。その後、東京の大組織・住吉会がマスコミとの接触を禁止し、構成員が雑誌に登場することを厳禁した。警察の圧力に加え、マスコミはいざとなったらなにを書くか分からないと激怒したため、と伝えられるが、真相は分からない。

 暴力団専門誌にとって、これまで住吉会は有力な取材源だった。ただでさえ暴力団の半数近くを占める山口組が、取材に応じてくれない状況で雑誌を作っていたのだ。そのうえ住吉会のような大組織が門戸を閉ざしてしまえばダメージはでかい。今後は住吉会同様、マスコミへの登場を禁止する組織が増えるだろう。暴力団に対する風当たりがここまで強くなってしまったら、メリットよりデメリットが多い。雑誌を使って知名度を上げようという作戦は逆効果だ。

 雑誌が生き残るためには、記事の方向性を変えたり、新分野を開拓したり、いまのうちから対策をとるべきだが、暴力団から離れれば専門誌は存在意義を失う。実際、福岡県で有害図書指定を受けてからも、それぞれ誌面作りはなにも変わっていない。その点、暴力団専門誌は暴力団と一蓮托生である。

 こうした雑誌を生活の糧としている私も決断を迫られる。これらの雑誌がなくなっても年に数回、一般誌からの依頼はあるだろう。数年に1回、本が出せるかもしれない。しかしそれだけでは食っていけない。これからも暴力団を追いかけていこうというなら、新しい生活基盤を作る必要がある。

潜入ルポ ヤクザの修羅場 (文春新書)

鈴木 智彦

文藝春秋

2011年2月17日 発売