「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ系列)が話題だ。
石原さとみ扮する病院薬剤師・葵みどりが、医師を頂点とするヒエラルキーが色濃く残る病院で、「患者に寄り添う薬剤師」の姿を追い求めるヒューマンドラマで、特に「病院に勤務する人」の間で、高い視聴率を獲得しているようだ。
職場として見たときの病院は、忙しい上に勤務時間が一定でないため、決まった曜日の決まった時刻に放送されるドラマとの相性はよくなさそうなものだが、このドラマは「録画してでも観る」という医療スタッフも少なくないとか。
なぜ病院薬剤師はドラマの主人公になれなかったのか
病院を舞台とするドラマは古今東西あまたある。しかしその主人公は、つねに医師か看護師のいずれかだった。なぜ病院薬剤師が主人公にならなかったのか――。理由はいくつか考えられる。
一つは薬剤師の数が少ないこと。
いや、実際には薬剤師の数は少なくない。現在日本には約31万人が薬剤師として登録されており、この数字は看護師の約122万人には遠く及ばないものの、医師の約32万7000人とは大差ない。
それにしては病院で薬剤師に出会う確率は高くない。その理由は、31万人の薬剤師のうち半分以上にあたる約18万人は調剤薬局やドラッグストアなどに勤務しているからだ。現状で病院に勤務する薬剤師の数は約5万4000人に過ぎない。
もう一つは、医師や看護師に比べて患者と接する機会(時間)の少なさ。「視聴者に興味を持たせる」という意味でも、薬を受け取る時か入院時の服薬指導の時くらいしか顔を合わせることのない薬剤師は不利なのだ。
こうした理由から、なかなか実現しなかった薬剤師を描くドラマに注目が集まることは予想できた。ただ、今回のドラマは、その薬剤師像に違和感を覚える人も多いという。そこで、実際のシーンを振り返りながら、医療従事者に“現場のリアル”を聞いてみた。
その1)医師は薬剤師に対してこんなに横柄なの?
ドラマの中でたびたび取り上げられる話題に「疑義照会」がある。医師の処方に疑問を感じた場合、薬剤師は本当にそれでいいのかを医師に確認し、場合によっては修正を促すことがある。これが疑義照会だ。
薬を処方できるのは医師だけだが、薬そのものについての専門知識では薬剤師のほうが上であることが多い。薬剤師法でも定められている疑義照会は、患者の安全を守る上で妥当で重要な制度なのだが、これが薬剤師にとってはストレスの元になることがある。