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 第1話で主人公の葵は医師の処方に疑問を持ち、プライドの権化のような医師に向かって疑義照会を敢行した(しかも医師の食事中に)。その後も、急変患者への診断・投薬について、患者を観察し、文献に当たった上で、医師に強く主張する。そして、多くの視聴者が予想した通り、医師の逆鱗に触れて懲罰の対象になりかける。

食堂で食事中の医師に疑義照会をするシーン 「アンサング・シンデレラ」(フジテレビ系)第1話より

 患者の健康を守るための正当な行為で逆恨みされ、その果てに懲罰動議にかけられたのではたまったものではない。

「30年前ならともかく、いまはこうした医師にお目にかかることはありません」

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 という声がある一方で、似たような経験を持つ薬剤師もいる。四国地方の公的病院で薬局長を務めるA氏が語ってくれた。

「処方内容に問題があり、疑義照会をしたところ『俺の治療方針や指示にケチをつける気か?』と激昂されました。たとえ間違っていても、最終的には医師に従うしかありません。薬剤師が勝手に処方を変更することは許されないのです。でも、さすがに自分でもマズいと思ったのでしょう。1時間ほどあとにシレっと私の指摘通りの変更処方箋が回ってきました(笑)」

“医師が上、薬剤師は下”としか考えない医師もいる

 九州の公的病院の薬剤部長・B氏はこんな話をしてくれた。

「ドラマの演出はやや極端に感じますが、あれに近いことはあります。でも、緊急性の高いケースの時は、たとえ医師の機嫌を損ねることになろうとも正論で挑んでいきます。言葉を尽くして説明しても、“医師が上、薬剤師は下”としか考えない医師は、簡単には納得しようとしない。そんな時は、最低でも患者にとって不利益にならないような対応に終始することになる」

急変した患者に投与する薬について強く進言するシーン 「アンサング・シンデレラ」(フジテレビ系)第1話より

 一般の企業にもこの手の上司はいるものだが、病院の場合、議論の先には「患者の命」がある。そこで薬剤師を萎縮させることに何の意味もない。

「チーム医療の経験が乏しい年配の医者や、自分に自信のない若い医者の中に、一定数そんな医者がいるのは事実です。薬剤師を“格下”と見ているから、ミスを指摘されることで『プライドを傷つけられた』と考えてしまう。まあ、そんなプライドなら無いほうがいいんだけど……」

 と語るのは、千葉県松戸市にある新東京病院消化器外科主任部長の本田五郎医師。続けてこう語る。

「医師の立場から言えば、ミスを見つけて事故を未然に防いでもらったことに感謝すべきなのに、それができないのは人間として未熟な証拠。高圧的な態度で薬剤師を黙らせれば、本当に必要な情報も上がって来なくなる。その危険性に気付けないのであれば、医師として失格です」

 ただ、これにも限度がある。ちょっと考えればわかることや、とりたてて緊急性のない案件でも、外来診療中など医師が手が離せないことを知っていて頻繁に確認してくる薬剤師もいるという。

「あまり意味のない確認が何度も来れば、医者だってイライラする。少し強い口調で言い返すと『あの先生は上からモノを言う』となる……。難しいところですよ」と本田医師は苦笑する。