7月4日に開幕した第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負。幸運にも里見香奈清麗への挑戦権を得た私だったが、第1局・第2局と連敗した。特に2局目は悔いの残る内容になった。五番勝負だから、あと1つ負けたらそれで終わりになってしまう。

ピリピリしていくのが本来の正しい姿であるのに

 嫌な予感は開幕前からあった。挑戦権を獲得してから約1ケ月、本来ならば開幕に向けて少しずつ神経を研ぎ澄ませながら準備を進めていくのだが、この「神経を研ぎ澄ませながら」という部分が思うようにいかない。家には4歳と1歳の子どもがいるのだ。

 私は比較的気持ちの切り替えが上手い方だと思う。対局で負けても、それを家に長期的に持ち込むことはないし、普段の対局前にピリピリとすることなく子どもに接しているつもりだ。しかし舞台が大きくなるとこのバランスの取り方がより難しくなった。

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 タイトル戦とは参加者みんなが目指している、紛れもない大舞台だ。勝負師として当然ではあるのだが、タイトル戦に意識を持っていかれ、ピリピリしたくないのにしてしまう。ピリピリしていくのが本来の正しい姿であると分かっているのに、それを拒否しなければいけない矛盾。

 将棋に集中したいのに出来ないフラストレーションが溜まり、常に心が落ち着かない状況に陥った。外を見れば雨が降っていてジメジメしている。スイッチを押すみたいに将棋と育児の脳内回路がピッと切り替わればいいのに。

©︎文藝春秋

夫にも対局や仕事はある

 前回タイトルに挑戦したのは3年前。すでに1歳になるかならないか位の長女がいた。しかしこの時に同じ様な状況にはならなかった。今回心のバランスが崩れた大きな理由は子どもが2人に増えたことから来た余裕のなさにある。

 我が家は夫も棋士のため、一般家庭より夫婦共に家にいる時間が多い。大人2、子ども1だった3年前は、大人1人が将棋に多く力を注いでも生活が成り立っていたのだ。しかし大人2、子ども2の現在はそうはいかない。4歳と1歳では生活サイクルにまだ差があり、親の自由時間は1日2、3時間位あれば良い方だ。

 家に多くいると言っても、夫にも対局や仕事はある。タイトル戦だからと言って将棋以外の全てを任せきりに、という訳にはいかないのだ。