1965年、初長編『ポケットの中の握り拳』で鮮烈なデビューを飾ったイタリアの映画監督マルコ・ベロッキオ。以来数々の名作を手がけてきた彼はまさに巨匠の名にふさわしい。80歳となる監督の最新作『シチリアーノ 裏切りの美学』(8月28日公開)では、1980年代にイタリア全土を騒がせたマフィア抗争とその結末を、一人の裏切り者の視点から描き出す。
『夜よ、こんにちは』(2003年)『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(2009年)など、これまでも歴史的事件の裏で揺れ動く人々の姿を緻密に描いてきた監督だけに、新作もただ激しいだけのマフィア映画にはならない。主人公は、抗争に敗れブラジルに逃れたマフィアの大物トンマーゾ・ブシェッタ。やがて警察に捕らえられた彼は、マフィア撲滅に燃えるジョヴァンニ・ファルコーネ判事に促され組織の犯罪を告白。その証言により組織は一斉摘発され、未曾有の大裁判が幕を開ける。
壮大でいながらどこか官能性の漂う抗争劇を、ベロッキオ監督はどのようにつくりあげたのか。Zoom取材にてお話をうかがった。
イタリア史における「重要な変化のシンボル」
――本作の題材は、実際にシチリアで起きたマフィアの大抗争とその後の大裁判です。この事件のどのような点に関心を持ったのでしょうか。
ベロッキオ マフィアは、もともとはイタリアの南部、特にシチリア固有の存在でした。今は、カモッラやンドランゲタといった犯罪組織もよく知られるようになり、シチリアどころか世界中にまでその勢力を広げているようですが。
マフィアの最大の特徴はその秘密主義にあります。それゆえにマフィアたちは常に罪を逃れ続け、国がマフィアと戦おうとしても全く戦いようがなかった。状況が大きく変わったきっかけは、ブシェッタの出現です。彼の情報提供とファルコーネや(パオロ・)ボルセリーノといった優秀な判事たちの仕事のおかげで、ようやく戦いに勝利することができたのです。ブシェッタはヒーローでもアンチヒーローでもない。自分では「改悛者」ではなく判事への「協力者」だと主張していました。たしかなのは、彼が歴史的な変化をもたらした人物だということ。イタリア史におけるある種の主人公であり重要な変化のシンボルでもある。私が彼に興味を持ったのはまさにその点でした。
殺害シーンは、ほぼ全てのエピソードが事実に基づいている
――劇中では、マフィア同士による殺害シーンなど強烈な場面が多々登場しますが、こうした場面はどの程度事実に基づいて作られたのでしょうか。