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スーパーマリオのビジュアルにおける決定的な選択とは?――川村元気×宮本茂『理系。』対談

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 大きな危機や逆境において、いかに難局を乗り越え、危機の先にある大きなチャンスをものにできるか。

 映画『告白』『悪人』『君の名は。』など数々のヒット作を企画製作し、小説家としても『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』などのベストセラーを発表、現在公開中の『映画ドラえもん のび太の新恐竜』の脚本も手がける“生粋の文系”の川村元気さんは、その答えを優れた理系人に求めた。

川村元気さん

「文系代表」の川村さんが理系のトップランナー15人と対話を重ねた『理系。』が文春文庫から刊行される。川村さんは、「今読み返すと、預言者のように彼らが未来を教えてくれていた」と振り返る。

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 解剖学者の養老孟司さん、数学的映像クリエイターの佐藤雅彦さん、天皇陛下の執刀医・天野篤さん、そしてロボットクリエイターから、バイオ学者、人工知能研究者、統計学者まで最先端の理系人が登場する『理系。』の中から、川村さんもファンだという伝説的な任天堂のゲーム開発者・宮本茂さんとの刺激的なやり取りの一部を公開する。

『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』──数々の傑作で世界を熱狂してきた“ビデオゲームのスピルバーグ”が、文系と理系を交錯させながら目指すゲームとは?

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『スーパーマリオ』の背景を空色にした理由は?

理系。』(文春文庫)

川村 宮本さんに会ったら聞きたいと思っていたんですけど、それこそ『インベーダーゲーム』とか『ドンキーコング』とか、背景がずっと黒じゃないですか。なのに、『スーパーマリオ』のときにいきなり空色が入ってきたのは、どうしてなのかなと。

宮本 当時、使える色が60色くらいあって、そこに空色が入っているのはわかっていました。ただ、昔の解像度で背景に青をもってくるとキャラクターがぼけるから、ものすごくこだわって描いている絵でもあるし背景は黒でしっかり締めたかったのと、ゲームをして目が悪くなったと言われるのもいやで、ずっと拒んでいたんです。でも、『スーパーマリオ』はファミリーコンピュータにディスクシステムをくっつける前の、本体だけで動く最後のゲームとして出そうとしていて、「ある意味でお祭りでもあるし、派手にいきましょうか」ってことで、空色になりました。

宮本茂さん

川村 今までのゲームでは背景が黒だったのが、空色という比較対象ができたことで暗闇になったというか、「色を変えただけなのに、なんだろうこの感じ」っていう当時の驚きは、今でも覚えています。