あり得ない音をどう奔放に混ぜるかっていう部分が楽しい
宮本 僕も空色の世界から暗闇にした土管にスーパーマリオがぽとっと落ちたときに、急に寒さみたいなものを感じてぞくぞくっとしたのを覚えています。それで「この感じをもっと生かさないともったいない」ってことで演出が高じたのが『ゼルダの伝説』で、音で何か足せないかとか、いろいろやってみたりしましたね。
川村 確かに、ゼルダのジングルを初めて聴いたときは、震えましたね。
宮本 それまではファミコンのボードに直打ちで打って出る音しか使えなかったのが、ゼルダの頃はサンプリングに近いこともできるようになったので、そのへんの音をかなり使っていて、近藤浩治という任天堂のサウンドディレクターとべったりやりましたね。効果音は、作ってもらったサンプリングを一通り聴いて、「このシーンにはこの音」みたいなことをやったりして、すごく楽しかったです。音楽というのは素晴らしくて、それだけで人の気持ちを作ることができるんですよね。
川村 『告白』という映画を一緒に作った中島哲也監督も「人の感情を動かすのは、映像よりも音」とよく言っていました。
宮本 ただ、ゲームの音の付け方はちょっと特殊で、レースゲームでも「ブーン」というアクセルのリアルな音より、異質な音が入った方がいいんです。あり得ない音をどう奔放に混ぜるかっていう部分が、ゲームではけっこう楽しい。
川村 宮本さんがすごいのは理系に踏み込んだ上で技術の発明だけでなく、そこに文系のジャンルでもある色や音へのアート的なこだわりを加えたことだと思います。
宮本 あと、ネーミングもかなりやりましたね。
川村 そこはどんなセオリーを持たれていますか?
宮本 「まぁ、悪くないんじゃないですか」というのはほとんどだめで、最初は反対意見が多いものの方が実際に売れたりするものだと思います。普通じゃないというのが大事なんじゃないですかね。