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「東京を意識して作らなくてよかった」

川村 日本人だろうが、アメリカ人だろうが、ヨーロッパ人だろうが、生理的に気持ちいいことはそんなにずれないだろうと。

宮本 変にどこかの国の個性を入れすぎても、逆に他の国で売れなかったりしますよね。あと、僕は任天堂本社がある京都で暮らしていて、昔は「東京はすごいんだろうな」とか「東京でいろんなイベントを見なあかんよな」とかいう東京へのコンプレックスがあったんですけど、一緒に仕事をしたときの糸井さんが自然体で、それ以来「どこの場所からというより、ぶれない個人として発信することが大事なんだな」と思えるようになったのはラッキーでした。その後、いろいろなゲームを海外で売るようになって「東京を意識して作らなくてよかった」と思うことが何度もありました。

©1985 Nintendo

川村 とても説得力のあるお話です。

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宮本 だから、日本で流行っているものと組まない方がいいと思うようになりました。組むこと自体は悪いことじゃないんだけど、組んでしまったがために海外に出すときに作り直さないといけなくなると、とんでもない労力がかかります。例えば教会を描くときも「たぶん教会なんだろうな」と世界中の人が思えるようにして、宗教色は出さないのが大事です。

(この対談の続きは『理系。』に掲載)

川村元気(かわむら・げんき)
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、映画プロデューサーとして『電車男』『告白』『悪人』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『天気の子』などの映画を製作。2010年、優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年に初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同作は全世界累計200万部突破のベストセラーになった。他著に小説『億男』『四月になれば彼女は』『百花』など。『理系。』の姉妹本にあたる『仕事。』は、宮崎駿、山田洋次、坂本龍一ら12人の巨匠と「人生を面白くする働き方」について語り、8万部突破のベストセラーとなっている。

宮本茂(みやもと・しげる)

任天堂代表取締役フェロ—。1952年京都府生まれ、77年金沢美術工芸大学工業デザイン専攻を卒業後、任天堂入社。『ドンキーコング』(81年)『スーパーマリオブラザーズ』(85年)『ゼルダの伝説』(86年)『F-ZERO』(90年)『スターフォックス』(93年)『ピクミン』(2001年)など、ゲーム史に残る数々の傑作シリーズを生み出したゲームプロデューサー。07年には米TIME誌「TIME 100(世界で最も影響力のある100人)」に選ばれ、“ビデオゲーム界のスピルバーグ”と評される。仏レジオン・ドヌール勲章「シュヴァリエ章」(06年)をはじめ、国内外の受賞歴も多数。

理系。 (文春文庫)

川村 元気

文藝春秋

2020年9月2日 発売