「私は聾唖ですから、あるいは許してくれるかもしれません」
裁判での鑑定は、内村鑑三の長男でプロ野球のコミッショナーも務めた精神医学者、内村祐之・東大教授と吉益脩夫・東大講師(いずれも当時)が当たった。内村は1952年出版の「精神鑑定」で鑑定内容を説明。誠策との実際の問答も紹介している。主要な部分をあげよう。
問 (第1事件の時は)どうするつもりで行ったか?
答 殺すつもりで行きました
問 親切にしてくれた兄さんを殺して、後で悲しいと思わないか
答 悲しいです
問 お父さんを傷つけたときは?
答 父はかわいがってくれなかったから、悲しくありません
問 生まれてから一番うれしかったことは?
答 (依然気難しい表情で考え込む)小学校から百姓するまで何もなかった。17歳で聾唖学へ入って、友達が手まねで話しているのを見てとてもうれしかった
問 殺したことを話すとき、嫌な気持ちはしないか?
答 前にはそれほどに思わなかったが、いま考えると、死んだ人は非常にかわいそうに思われ、拝みたい気持ちです
問 (これだけのことをしたら)普通は死刑になる。おまえもそうなるかもしれない
答 (全く顔色を変えぬ)私は法律というものを知りません。人を殺せば死刑になるということも読んだことがありません。友達が話しているのを聞いたことはあります。まだ殺されては困る
問 もし死刑だと言われてもいいか?
答 (考え込む。依然として表情の変化なし)非常に怖いと思います
問 自分のしたことが死刑に相当すると思わないか?
答 (前と同じく、身動きもせず問い返す)
問 有期懲役が適当か、死刑が適当か?
答 死刑が当然です。しかし、私は聾唖ですから、あるいは許してくれるかもしれません
「殺して金を取れれば一番うれしい」
問 恩のある親を傷つけることは一番悪いことだろう?
答 それはそうですが、親は子どもをかわいがってくれるのが当たり前なのに、唖(おし)はだめだ、だめだと言いますから、親には恩を感じません。それで殺しました(活発に答える)
問 16歳の時まで人を殺そうと思わなかったのに、人を殺して物を取ろうとしたのはどういうわけか?
答 活動(写真=映画)に行ったり、新聞などを読んで思いつきました
問 西ケ崎(武蔵屋)へ行くどのくらい前から考えだしたか?
答 (しばらく答えぬ)剣劇映画を見て思いついたが、それが何年何月か忘れました
問 16歳の時、強姦するということを知っていたか?
答 映画の影響と思います
問 人が死んだのを見て何と思う?
答 捕まると恥ずかしいから困った。むごたらしさは感じない。騒がれて捕まることが心配でふるえた
問 お金を取ることとうまく殺すこととどちらがうれしいか?
答 殺して金を取れれば一番うれしい