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連載昭和事件史

「私はろう者ですから、許してくれるかも」なぜ、19歳の青年は“狂気の連続殺人犯”になってしまったのか

太平洋戦争開戦前後に起こった、狂気の連続殺人事件とは #2

2020/08/30
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「私は聾唖ですから、あるいは許してくれるかもしれません」

 裁判での鑑定は、内村鑑三の長男でプロ野球のコミッショナーも務めた精神医学者、内村祐之・東大教授と吉益脩夫・東大講師(いずれも当時)が当たった。内村は1952年出版の「精神鑑定」で鑑定内容を説明。誠策との実際の問答も紹介している。主要な部分をあげよう。

問 (第1事件の時は)どうするつもりで行ったか?

答 殺すつもりで行きました

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問 親切にしてくれた兄さんを殺して、後で悲しいと思わないか

答 悲しいです

問 お父さんを傷つけたときは?

答 父はかわいがってくれなかったから、悲しくありません

 生まれてから一番うれしかったことは?

答 (依然気難しい表情で考え込む)小学校から百姓するまで何もなかった。17歳で聾唖学へ入って、友達が手まねで話しているのを見てとてもうれしかった

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問 殺したことを話すとき、嫌な気持ちはしないか?

答 前にはそれほどに思わなかったが、いま考えると、死んだ人は非常にかわいそうに思われ、拝みたい気持ちです

問 (これだけのことをしたら)普通は死刑になる。おまえもそうなるかもしれない

答 (全く顔色を変えぬ)私は法律というものを知りません。人を殺せば死刑になるということも読んだことがありません。友達が話しているのを聞いたことはあります。まだ殺されては困る

問 もし死刑だと言われてもいいか?

答 (考え込む。依然として表情の変化なし)非常に怖いと思います

問 自分のしたことが死刑に相当すると思わないか?

答 (前と同じく、身動きもせず問い返す)

問 有期懲役が適当か、死刑が適当か?

答 死刑が当然です。しかし、私は聾唖ですから、あるいは許してくれるかもしれません

「殺して金を取れれば一番うれしい」

問 恩のある親を傷つけることは一番悪いことだろう?

答 それはそうですが、親は子どもをかわいがってくれるのが当たり前なのに、唖(おし)はだめだ、だめだと言いますから、親には恩を感じません。それで殺しました(活発に答える)

問 16歳の時まで人を殺そうと思わなかったのに、人を殺して物を取ろうとしたのはどういうわけか?

答 活動(写真=映画)に行ったり、新聞などを読んで思いつきました

問 西ケ崎(武蔵屋)へ行くどのくらい前から考えだしたか?

答 (しばらく答えぬ)剣劇映画を見て思いついたが、それが何年何月か忘れました

問 16歳の時、強姦するということを知っていたか?

答 映画の影響と思います

問 人が死んだのを見て何と思う?

答 捕まると恥ずかしいから困った。むごたらしさは感じない。騒がれて捕まることが心配でふるえた

問 お金を取ることとうまく殺すこととどちらがうれしいか?

答 殺して金を取れれば一番うれしい