銀座のクラブといえば、政財界の大物をはじめ、実業家、医者、弁護士、芸能人、スポーツ選手らが連日詰めかける華やかな社交場。そのマダムやママはまさに盛り場・銀座の花形といえる。いまから60年近く前、28歳で銀座のクラブのマダムにのし上がった女性が金のもつれなどから男に殺され、バラバラにされて各所に捨てられた。なぜ、そんなことに?

 高度成長が続き「一億総中流」とも呼ばれた「昭和元禄」の時代。一方で沖縄返還交渉が大詰めを迎え、「70年安保」に向けた学生運動の荒々しい波が迫っていた。公害など社会矛盾の姿も。そんな一種混沌とした中で、彼女が陥ったのは大都会のまばゆい光の裏にひそむどす黒い闇だったのか。

 当時の新聞記事は見出しはそのまま、本文は適宜書き換え、要約する。文中いまは使われない差別語、不快用語が登場するほか、敬称は省略。殺害された女性は「M」、犯人の男は「K」とする。(全3回の1回目/続きを読む

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遺体の一部は隅田川で発見された ©文藝春秋

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高級マンションに女性の遺体、19歳と23歳の男が逮捕

 事件の端緒はスナック経営者からの“タレコミ”だった。新聞に第一報が載ったのは1967(昭和42)年11月6日付夕刊だが、比較的まとまっている毎日新聞(以下、毎日)を見よう。

女性バラバラ殺人 赤坂 高級マンションで凶行 車で運び捨てる 金融業者ら二人取り調べ

 

 6日朝、東京都中野区のスナックバー経営者(26)が「うちで使っているボーイのA(19)が知人に頼まれて死体を千葉県銚子市まで運ぶのを手伝ったらしい」と110番した。警視庁捜査一課は中野署に捜査本部を設置。Aと知人の港区赤坂、金融業IことK(23)=韓国生まれ=を呼んで調べたところ、Kは犯行の一部を自供したため、捜査本部は殺人、死体損壊、死体遺棄容疑でKとAの逮捕状を請求して本格的取り調べを始めた。

毎日新聞の事件の第一報

 当時の新聞に「容疑者」呼称はなく、呼び捨てだった。発覚の経緯からいえば当然だが、捜査状況を報じる各紙の記述は少年Aの供述が中心で、その点が詳しいサンケイ(当時。現在の産経新聞)の記事に移ろう。