8月28日より公開の『オフィシャル・シークレット』は、イラク戦争前夜に英国で起きたキャサリン・ガン事件の映画化だ。キャサリンさんをキーラ・ナイトレイが演じる。2003年、英国諜報機関の職員だった彼女は、米国国家安全保障局からのメールを受け取る。イラク攻撃の支持を拡大するため、国連安保理メンバーへの盗聴を求めるものだった。不当な戦争を止めたいと思った彼女はその内容をリーク、オブザーバー紙に掲載される。結果、公務秘密の漏洩で逮捕、起訴された。
「映画の公開にあたり欧米を飛び回りましたが、10年前だったら出来なかったでしょう。やはり時間が必要でした。正しいことをしたら、あとは普通の静かな生活に戻りたかった。告発者はみんな同じことを望んでいると思います。でも勇気を奮って動いた途端、なぜか自分が攻撃される。今後は内部告発者を守る活動もしたいと思っています」
日本でも政権周辺のスキャンダルが相次いでいる。国民が上からのお達しを鵜呑みにしていては、世の中は権力者にとって有利になるだけだ。
「事件以降、私は政府だけでなく何に対しても非常に懐疑的になりました。メディアも表面的にしか扱わない問題も多いので、自分で出来るかぎり調べます。日本の観客もこの映画を観て“真実は隠されているかもしれない”と考え、もっと追求すれば、わかることがあるかもしれませんよ」
映画の中での「政府は変わる。私は英国政府にではなく、国民に仕えている」という彼女の言葉が印象的だ。
「あれはギャヴィン・フッド監督に対して私が言ったことなんです。政府職員に支払われる給与、その原資は国民が納めた税金です。つまり雇い主は国民、市民だという視点に立てば、市民に対する不正は告発すべき。同時に私のような内部告発者を守ってくれるのも、市民なんです。そういう文化が英国に残っていて良かったと思います」
記者たちは検証を重ね、彼女の告発を報じる。だがメディアは告発者にとって、騎士にも敵にもなり得るのでは?
「これは非常に重要な問題です。多くのメディアは時局によって態度を変えます。例えば保守政権の時は、保守系メディアは政府の告発者を攻撃するはずです。一方、左派政権の時なら保守系メディアはここぞとばかりに告発者を支持するでしょう。ジャーナリストも編集者も、自分に問いかけるべきです。『我々はニュースを報道しているのか? それとも支持する政権を代弁しているのか?』とね」
台湾で育ち、日本に留学。世界中で様々な経験を積んだ。
「1997年から2年間、広島の小さな村で英語教師をしていたんです。原爆の日に行われる平和の灯リレーにも参加しましたし、平和記念公園にも行きました。あのように戦争の破壊の痕跡を残した場所は欧米にはありません。残念ですが、人々は恐怖を簡単に忘れてしまう。自分が処理しきれないことは見なかったことにする。だからこそ、あのように記録を残していかねば」
Katharine Gun/1974年、英国生まれ。言語学者を目指していたが、英国政府通信本部(GCHQ)の翻訳分析官に。2003年、英米政府による国連安保理メンバーへの盗聴指示を告発。逮捕、起訴されたが後に取下げられた。
INFORMATION
映画『オフィシャル・シークレット』
http://officialsecret-movie.com/