「裁判員の負担軽減」も重要ではあるが
しかし、ご遺体の写真は、「真相を明らかにする」という刑事裁判の目的を達成するための最重要証拠なのである。「裁判員の負担軽減」も重要ではあるが、真相を明らかにするという目的を凌ぐものなのか。
私は、裁判員として選任された以上、ご遺体の写真を見なければならないと思う。そうでなければ、真相解明には到底たどり着けないと考えるからだ。ただし、ご遺体の写真を見ることに強度のストレスを感じる人も少なくないであろうから、裁判員の選任過程で、予めご遺体の写真を見なければならないことを告げ、それを理由に辞退することを認めるべきである。
そして、法廷でも検察官が見せ方を工夫する必要がある。見せる前に、どのような状態かを口頭で説明する。そのうえで、最初は、白黒で小さいサイズのものを見せる。少しずつ写真を拡大して見せる。その状態で、裁判員が大丈夫そうだったら、カラー写真を見せればよい。殊更に残忍性を強調しなくても、それで十分に理解できるはずだ。
ご遺体をイラストにすることで、ご遺族はどう感じるか
平成26(2014)年、東京地裁で逮捕監禁・傷害致死・死体遺棄被告事件の裁判員裁判が行われた。仕事上のトラブルが原因で、30代の男性が3名の男に拉致監禁され、車内で両手首等をガムテープで縛り上げられ、約4時間半にわたり暴行を受け死亡し、群馬県の山林にご遺体が遺棄されたという凄惨な事件であった。
被害男性の弟である佐藤達樹さんは、すべての公判に被害者参加した。ご遺体には、体の全体に約50か所の打撲傷、8か所の肋骨骨折、くも膜下出血、外傷性気胸等の重大な傷害があり、多発外傷に基づく腎機能障害等諸臓器の機能異常という原因で亡くなっていた。佐藤さんは、後に犯罪被害者支援弁護士フォーラムが主催したシンポジウムに参加して、ご遺体の状況について、次のように述べている。
「兄の顔はパンパンに膨らんで、生きている時の1.5倍くらいになっていました。スマートフォンで殴られたおでこの上のあたりが、スマートフォンの形に凹んで赤黒くなっており、一目で内出血しているのが分かりました。上半身には数えきれないほどの赤黒いアザがあり、特に右肩は肌色の部分は全くありませんでした。右胸と背中は様々な濃さのアザがいくつも重なり合っていました。ひとつとして同じ色はない、という感じでした。そして、遺体を山に捨てたせいで、鼻や耳から小さい虫が無数に出てきました」
このご遺体と向き合った遺族の無念はいかほどのものだったであろうか。